韓国慰安婦本訴訟、2審逆転有罪は「世論迎合」
異議唱える学者・弁護士ら
元慰安婦の野次制止されず
いわゆる従軍慰安婦問題をめぐり、韓国で「親日的だ」などと物議を醸した「帝国の慰安婦」(2013年出版)の著者、朴裕河・世宗大学教授が元慰安婦の名誉を傷つけたなどとして争われていた裁判の控訴審判決について、被告の朴教授が逆転敗訴となったことに国内の弁護士や学者たちが異議を唱えた。慰安婦問題で少数意見を擁護する韓国世論が、どこまで広がるのか関心を集めそうだ。
(ソウル・上田勇実)
ソウル高等裁判所は10月の控訴審判決で、検察が問題視した同書の記述35カ所のうち11カ所は単なる意見表明ではなく名誉毀損(きそん)罪の成立要件となる「事実の摘示」に相当し、それらが「文脈上」、元慰安婦らの社会的評価を「貶(おとし)めるに十分」であり、なおかつ「虚偽」の内容だなどとして罰金1000万ウォン(約104万円)の支払いを命じた。
今年1月の1審判決は5カ所が「事実の摘示」に相当するとしながらも、いずれも名誉毀損には当たらないか、特定の個人に向けられた記述ではなく、故意に名誉を傷つけようとしたとは認められないとして無罪を言い渡していた。
1審のソウル東部地裁は朴教授の著述動機について「韓日両国の相互信頼構築を通じた和解という公共の利益のためだった」とも指摘していた。
1審判決破棄の判断に韓国の歴史学者や弁護士らは7日、日本や米国の学者らの賛同を受けて朴教授を支援する会を発足させ、記者会見で「深刻な憂慮」を表明した。
会見で読み上げられた声明文は、朴教授を「正しいと認められた見解と異なる意見を披歴しただけ」と擁護。「時代錯誤の有罪判決で思想的統制が再び復活し、画一的な歴史解釈がまた強制される感じを受けた人は1人や2人ではない」として判決がもたらす悪影響に言及した。
会見に出席した弁護士の金香勲氏は、本紙の取材に「判決は国連人権小委員会や河野談話などに基づいた内容とは異なる記述だから虚偽だと断言しているが、それらも一つの意見にすぎない」と述べ、法適用の面で「大ざっぱでいい加減な判決」との見方を示した。
また判決が覆った背景に韓国の裁判所が「政治や反日が絡む判断で国民感情に影響を受けるという現実」を挙げ、「典型的な世論迎合裁判」と断じた。
1審判決時は保守系の朴槿恵政権だったが、今回の控訴審ではリベラル派の文在寅政権に交代しており、1審・2審の間で政権の政治理念や外交路線が180度変わったといっても過言ではない。
控訴審の公判を傍聴したある30代の韓国人男性によると、先月のトランプ訪韓時に晩餐(ばんさん)会で抱き着いてきたことでも知られる元慰安婦の李容洙さんが傍聴席で朴教授を大声でなじる場面が何度もあったが、裁判官は一切これを制止したり注意しなかったという。
「帝国の慰安婦」をめぐっては、14年に元慰安婦9人が名誉毀損を理由に同書の出版差し止め訴訟を起こしたほか、15年には同書の記述34カ所の削除を求める仮処分決定がなされた。今回、異議が唱えられた控訴審判決は、15年に検察が朴教授を名誉毀損罪で在宅起訴して起こされた裁判だ。
同書で問題視されているのは、①朝鮮半島で公的に強制連行はなかった②日本側と同志的関係にあった③売春の範疇(はんちゅう)にあった――などの記述。
一連の裁判動向と関連し、保守系の韓国経済新聞は社説で、「自分と考えが違うと異端視する韓国社会の一方通行式な陣営論理と大衆の感性に訴える独善が見たいものだけを見るという現実を生んではいまいか」と警鐘を鳴らしている。
こうした憂慮に韓国国民の目は向けられるのか。朴教授は控訴審判決を不服とし、上告の意向を明らかにしているが、予断を許さない。