北朝鮮にさらなる圧力を

遠藤 哲也元日朝国交正常化交渉日本政府代表 遠藤 哲也

要注意の対話・交渉路線
極力避けるべき軍事力行使

 北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐって、米朝間で激しい言葉の応酬が続き、緊張が高まっている。北朝鮮からの核の脅威は新たな局面に入っている。国際社会の取り得る対策には、どのような選択肢があるのだろうか。考えられる選択肢を取り上げ、それを踏まえて、日本として何をなすべきか、何ができるのかを考えてみたい。

 第一に軍事力の行使の場合。米国による先制軍事攻撃のケースと北朝鮮による先制攻撃の二つのケースが考えられる。前者の場合は、おそらく通常兵器によって、38度線北側の長距離砲基地、ミサイル発射基地、核関連施設、政権中枢部、通信施設等の限定目標を狙うだろうが、北朝鮮の第二撃能力を完全に抹殺することは難しいであろう。北朝鮮の軍事施設は地下要塞化されているし、核ミサイルも移動式のものが多く、北朝鮮の報復能力は残るであろう。米国の意図は局地的なものであっても、全面戦争に発展していく恐れがある。これに対し、北朝鮮側は大陸間弾道ミサイル(ICBM)が完成していれば、米国本土を、それ以前であれば、韓国に報復攻撃を行うし、既にノドン・ミサイルの射程距離に入っている日本も、核兵器、化学兵器によって攻撃するであろう。

 後者の北朝鮮による先制攻撃の可能性は否定できない。しかし、金政権は米国の圧倒的な軍事力を認識しており、北朝鮮が先に手を出せば、金王朝と北朝鮮が滅亡することを知っている。しかし、誤情報や誤判断に基づく偶発的な行動はあり得るし、特に緊張が高まっている時には、その恐れが大きい。また、金王朝が極限まで追い詰められたと考えた時には、自殺行為もないわけではない。いずれにせよ、軍事力行使には非常な大きなリスクを伴う。

 第二にレジーム・チェンジの場合。米国は北朝鮮の体制変換は求めないとしているが、改革・穏健路線へのレジーム・チェンジが行われれば、最も望ましいシナリオである。レジーム・チェンジにはもろもろのシナリオが想定されるが、国民大衆による下からの革命は可能性が少ないし、軍の不満分子による軍事革命は騒擾(そうじょう)的なものはあり得るが、大規模なものは難しく、その他、側近による宮廷革命、「斬首作戦」も容易なことではない。レジーム・チェンジが偶発的に起こり得ることは否定できないが、その可能性は高いとは思われない。

 第三に圧力強化路線の場合。現実的な手段である。これまでも国際社会は国連安保理決議を通じ、また日米韓は個別の経済制裁を科し、圧力は次第に強いものになっている。北朝鮮の輸出入は大きく制限されているし、大きな外貨取得源の一つであった海外労働者の新規派遣も禁止された。さらに第二次制裁として、北朝鮮と取引のある企業、金融機関を米国市場から締め出す措置も講じられることとなった。何より隣国である中国とロシアが国連決議に加わったことが挙げられる。

 第四に対話・交渉路線の場合。水面下での米朝の直接接触が行われているようだが、今は対話・交渉の時期ではない。米朝対話で北朝鮮が求めているのは、まずは核保有国としての認知、平和協定の締結、在韓米軍の撤退、制裁の解除などであって、その主張を貫徹するには、米国本土を直接攻撃できる核・ミサイルが必要であると考えている。米国としては、これまでの交渉は失うものばかりで、得るところがなかったと判断しており、核・ミサイル開発の放棄を対話の前提としている。このような状況で、現時点では実質的な対話の可能性は少ないと見られる。

 しかし、中期的には可能性はある。軍事路線はハードルが高く、圧力路線も所期の効果を生まず、北朝鮮が核・ミサイル開発を続けるとなれば、対話が浮き上がってくる可能性がある。

 以上、この問題の主役は米国であり、日韓は米国の行動をできる限り支援すべきである。また、日米韓の結束は絶対に不可欠である。特に文政権は南北宥和(ゆうわ)路線に傾きがちなので行動に慎重を期するよう求めるべきである。

 圧力路線は最も現実的な手段であるので、国連決議が着実に履行されるよう、国際社会に訴え続けていくべきである。特に北朝鮮の命綱を握っている中国、次いでロシアはいずれも半身なところがあるので、目を光らせるべきであろう。さらに、現在の制裁が不十分ということになれば、石油の全面禁輸も含め、一層の制裁措置を働き掛けるべきであろう。

 軍事力路線は極力避けるべきだが、最後の選択肢として、残しておくべきであるとともに、北朝鮮からの先制にせよ、報復攻撃にせよ、日本が標的になることは間違いないので、日米、できれば日米韓で緊急対応策を協議しておくのが望ましい。その他、ミサイル防衛体制の強化、テロ対策の強化、北朝鮮からの難民対策等が挙げられよう。

 対話・交渉路線でICBM開発を断念させる代わりに、米国側が核兵器と短・中距離のミサイル保有を認めるというような妥協は日本(韓国にも)に安全保障上、深刻な影響を与えるので、対話・交渉については、事前およびその過程で日米韓の協議が必要である。かつ北朝鮮に米朝合意を確実に守らせるためには、中・露を含む、国際的な保証が求められる。

(えんどう・てつや)