韓国新大統領、北への融和的姿勢を転換せよ


 文在寅氏が韓国の大統領に就任した。これで過去2代続いた保守政権から交代し、9年ぶりとなる革新系政権が誕生した。

 だが文氏は、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への融和的な姿勢が懸念されている。こうした姿勢を転換し、地域の安定のために日米との連携強化に努めるべきだ。

 平壌訪問の意向表明

 文氏は大統領選で、親友による国政介入事件で罷免された朴槿恵前大統領と与党を「国政壟断(ろうだん)勢力」と位置付け、ろうそくデモを通じた政権退陣運動を追い風に20代から50代までの幅広い世代に支持された。

 しかし北朝鮮に融和的な文氏の大統領就任で、対北包囲網にほころびが生じるのではないかとの懸念は残る。文氏は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と「会談する用意がある」とも語っていた。

 就任宣誓後の演説でも、米国、中国、日本訪問に意欲を示したほか「条件が整えば平壌も訪れる」と表明した。緊張を緩和させる狙いもあろうが、対話を急ぐあまり、北朝鮮に付け入る隙を与えてはならない。

 北朝鮮は弾道ミサイルの発射を繰り返し、6回目の核実験の準備を行っているとみられる。北朝鮮に融和的な政権の誕生を機に、核実験に踏み切るとの見方も出ている。これ以上、地域を不安定化させることは許されない。文氏は北朝鮮への圧力を高めるため、日米との連携強化に動くべきだ。

 文氏は選挙期間中、最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍への配備に慎重な姿勢を示してきた。就任後の演説では米中両国と真摯(しんし)に交渉すると述べたが、THAAD配備に反対する中国は「韓国が中国の関心事項を高度に重視し、適切に対応するよう望む」と早速、揺さぶりを掛けてきている。

 万一、配備撤回という事態に陥れば、米韓同盟関係は修復不能となろう。北朝鮮のミサイルの脅威に対処する上でも、THAAD配備は欠かせない。文氏は中国の理解を得るための外交努力を尽くすべきだ。

 一方、文氏は慰安婦問題をめぐる日韓合意の見直しに向けた再交渉を訴えている。だが、合意に基づく解決策は「最終的かつ不可逆的」なものだ。これを覆すのであれば、日韓関係は冷却化し、結果的に北朝鮮を利することになろう。

 合意では、ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像について韓国が「適切に解決されるよう努力する」としていた。だが、この像の撤去が進まない中、昨年末には釜山の日本総領事館前に慰安婦像が新たに設置され、日本は対抗措置として長嶺安政駐韓大使らを一時帰国させる事態に発展した。

 日韓合意へ誠実な対応を

 日本と韓国は民主主義と市場経済という共通の価値観を有する。昨年11月には軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結にもこぎ着けた。北朝鮮を念頭に防衛協力を強化しつつ、未来志向の関係を築くべきだ。

 ぎくしゃくしている日韓関係をこれ以上悪化させないためにも、文氏には合意への誠実な対応が求められる。