深刻化する北の核・ミサイル
対日韓報復招く限定攻撃
制裁強化へ一層の対中圧力を
北朝鮮をめぐるニュースは日本の新聞、テレビに登場しない日はないといってよい。そのうちでも、日本の安全保障にとって、最も深刻なのは核・ミサイルの開発である。本稿では、①北朝鮮はなぜ、核・ミサイルに固執するのか、放棄する可能性はあるのか②開発の現状と今後の見通し③国際社会の対応―について触れる。これまでの対応は結果論から言えば、功を奏したとは言えないが、今後いかにすべきか、その選択肢などについて考えてみたい。
北朝鮮が核・ミサイルに固執するのは、一つは軍事的動機である。南北の経済格差の拡大、冷戦終焉(しゅうえん)後、中ソという後ろ盾を失い、南北の軍事バランスは質的には北朝鮮に不利になっている。その挽回手段として、核・ミサイル・化学兵器は極めて有効な手段である。北朝鮮主導の南北統一は、北朝鮮の最高の国家目標であり、そのためには北朝鮮の軍事力優位は不可欠である。さらに対米抑止の手段である。米国の同盟国である日本、韓国(在日・在韓の軍事基地も含む)は核・ミサイルの到達範囲に入っているし、遠からず大陸間弾道弾(ICBM)による米国本土への核攻撃も可能となろう。また、リビアおよびイラクの政権の崩壊の前例も、金正恩政権の念頭にある。
二つ目に政治的、外交的動機である。アジアの最貧国の一つにすぎない北朝鮮が米国をはじめ、世界の大国と渡り合えるのは、ひとえに核とミサイルの力である。体制維持のためには、軍事力が必要であり、軍部の支持を固めることができる。また、核およびミサイルの輸出による外貨獲得である。
このような動機に基づく北朝鮮が、核・ミサイルを放棄する可能性はあるのだろうか。これまでの歴史を見ると、いったん、核を持った国が核を放棄したのは南アフリカのみであったし、北朝鮮に「虎の子」である核の放棄を期待するのは幻想であるまいか。北朝鮮が核を放棄するのは、レジーム・チェンジ(ただし、後継政権が非核化に踏み切るとは限らない)か、外交的、政治的、経済的に金王朝の存亡が懸かった極限状況の場合ではないかと思われる。
核とミサイルは不可分だが、開発の歴史はミサイルが先行している。1980年代にはスカッド・ミサイルを独自で生産することに成功し、これをベースに中距離弾道ミサイル「ノドン」を開発した。ノドンは射程1300㌔と、日本全域をその範囲に納めている。さらに長距離弾道ミサイル「テポドン」を開発し、次なる目標は米国本土を狙えるICBMの開発で大出力のロケット・エンジンの燃焼実験を行っている。その実現は数年以内かもしれない。
核弾頭については、プルトニウム型、ウラン型に加えて、ブースト型強化核爆弾など、取りそろえている。ミサイル搭載可能な小型化、軽量化が実現し、実戦配備されるのも時間の問題であろう。現在、プルトニウム核弾頭8~10発、濃縮ウラン弾頭数発、および2500~5000㌧の化学兵器を持っている可能性がある。
北朝鮮が核・ミサイルの本格的開発を始めた90年代以降、国際社会が手を拱(こまね)いていたわけではない。国連安保理による累次の非難声明、経済制裁の強化、日米韓などの独自の経済制裁、核枠組み合意、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO=筆者も直接関与した)、6者協議等、有志国による対応など、阻止に努めてきたが、結果的には開発は進み、脅威は深刻化してきた。
核ミサイルが米国本土に到達し得る日も遠くない状況となり、脅威は新局面に入ったと言える。米国は全ての選択肢はテーブルにあるとしているが、今後どのような選択肢があるのだろうか。
その幾つかについて、コメントとともに順不同で例示してみる。
一、主として通常精密兵器による核ミサイル、化学兵器関連施設に対する限定攻撃(関連施設を十分に把握しているのか。韓国や日本に対するテロや、場合によっては核攻撃を含む報復攻撃を招き、全面戦争〈第二の朝鮮戦争〉に発展する恐れがある)
二、これまでの制裁措置の忠実な履行とさらなる制裁の追加(北朝鮮の崩壊を恐れる中国がどの程度応ずるか。米国は、北朝鮮と取引する中国人への制裁、金融制裁等を含め、中国に一層の圧力をかけるべし)
三、とりあえず核・ミサイルの現状維持を認める(十分な検証が可能か。米国をはじめ国際社会として、米朝平和協定、経済援助、米韓合同軍事演習の中止等いかなる代償を払うのか)
四、日米韓における高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備等ミサイル防衛体制の強化
五、サイバー・電子操作による核・ミサイル開発、実験の妨害
六、北朝鮮・金王朝のレジーム・チェンジの試み
いずれも功罪得失があり、容易なことではないが、時間が切迫していることでもあり、可能なところから手を付けていくとともに、併せて、全ての選択肢があることを北朝鮮に知らしめることが必要である。なお、そのためには日米韓の間の結束が不可欠だが(韓国の次期政権の政策は大きな影響を持つ)、それに中国を引き込んでいくことが必要である。その観点から、今回の米中首脳会談は原則論に終始したようだが、今後に期待したい。
(えんどう・てつや)