朴大統領罷免、懸念される地域の不安定化


 韓国の憲法裁判所は朴槿恵大統領について、機密文書流出などを違法行為と認定し、「国民の信任を裏切り、憲法を守る観点から容認できない重大な法違反行為を犯した」として罷免を宣告した。朴大統領は失職した。

 韓国で大統領が国会の弾劾訴追で罷免されるのは初めてで、1987年の民主化以降、大統領が任期途中で退任するのも初めてだ。

 世論に配慮した憲法裁

 憲法裁は、朴氏が秘書官を通じて機密文書を親友の崔順実被告に流出させたことなど一連の行為を「違法」と断定。「崔被告の利益のために大統領の地位と権限を乱用した」と判断した。

 韓国の憲法の規定では、大統領は原則として在職中は刑事上の訴追はされない。だが朴氏が罷免されたので、検察は立件を目指している。

 罷免決定は世論の後押しによるものだ。世論調査では弾劾に賛成が76・9%に上っていた。この背景には、経済の低迷による政治不信の高まりがあった。憲法裁は「疑惑が提起されるたびに否認し、むしろ疑惑の提起を非難した」と朴氏の態度を問題視し、「憲法を守る意思が見えない」と厳しく批判した。

 民間人である崔被告による国政介入を許した朴氏の責任は重い。だが、このことが大統領を罷免すべき重大な違法行為であるかについては専門家の間で異論も少なくなかった。

 憲法裁は時の政治情勢や世論に左右されやすいと言われる。罷免決定が裁判官8人の全員一致であったことを踏まえれば、憲法裁が朴氏への厳しい世論に配慮したものと考えられる。

 朴氏の罷免で、60日以内に大統領選が実施される。世論調査では最大野党「共に民主党」の文在寅前代表がトップで、反日反米・親北朝鮮路線の新大統領が誕生する可能性がある。

 いわゆる従軍慰安婦問題に関し、文氏は日韓合意の見直しを唱えている。だが、合意は「最終的かつ不可逆的」なものとして交わされた。たとえ政権が代わっても誠実な履行に努めなければ、韓国は日本をはじめ国際社会からの信頼を失うだろう。

 釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置されたことで、日韓関係は冷却化している。設置は合意の精神に反するだけでなく、外国公館の権威維持をうたったウィーン条約に違反するものだ。韓国政府は何としても撤去する必要がある。

 文氏は安全保障面でも、米国と合意した最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備について撤回する姿勢を示し、日本と締結した軍事情報包括保護協定(GSOMIA)にも反対している。北朝鮮の核や弾道ミサイルの脅威に対抗するため、日米韓3カ国の連携強化が求められる中、大きな懸念材料だ。

 平和につながる政策を

 大統領選では朴氏の対日政策が争点の一つになり、「反日」ムードが高まりかねない状況だ。しかし日韓関係の一層の悪化は地域の不安定化を招き、韓国の利益にもならないだろう。文氏をはじめとする有力候補は、どのような政策が真の平和や繁栄につながるかを真剣に考えるべきだ。