在日米軍「攻撃」、基地撤去狙う北の緻密な戦略


 北朝鮮当局は今回の弾道ミサイル発射実験を、在日米軍基地への攻撃訓練だと発表したが、日本のメディアは「日本への脅威が新たな段階に入った」と報道し、国民の恐怖心を煽(あお)る結果を招いている。北朝鮮当局は、ほくそ笑んでいるであろう。

核戦力構築を妨げる存在

 この発表は対日謀略宣伝の一環である。「米軍基地は日本の平和に有害」とのイメージを植え付け、日本での米軍基地撤去への動きの活発化を狙ったものだ。だが、反基地闘争を展開している日本の左翼陣営への支援ではない。韓国動乱の教訓から、北朝鮮は、近隣地域にある在日米軍基地が、自国による韓半島統一や核戦力構築の障害になると考えているのだろう。

 仮に北朝鮮が在日米軍基地を攻撃したならば、米国は「単なる在外基地への攻撃」ではなく、自国への攻撃と見なして直ちに反撃するであろう。国際世論もこの攻撃を容認すると推察できる。中国も阻止し難いだろう。米国は「1973年の大統領戦争権限法」の制約を受けることなく、大統領権限だけで本格的な攻撃が可能になる。

 その結果、北朝鮮の金正恩体制は短時日のうちに崩壊すること請け合いだ。フセイン支配体制のイラクのように、独裁国は統治機構が集約されており、中央からの命令がなければ軍は作戦を実行できない。その意味で、強固な独裁体制には不可避的な脆(もろ)さがある。

 北朝鮮は、国際社会に「何をやらかすか分からない」とのイメージを意図的に与える戦術で、国連安全保障理事会決議などを公然と破ってきた。だが、その狂気の言動の根底には、緻密に計算された北朝鮮流の手練手管が潜んでいるのを見逃してはならない。北朝鮮当局は米軍基地攻撃がどのような結果を招くか、十分に承知しているはずだ。

 国内での「新段階脅威」論の背景には、政府が北朝鮮だけでなく中国の核武装の脅威について、十分に周知させてこなかった責任がある。今回のように予告なく弾道ミサイルが発射されたことに対し、主要メディアもいまさらのように驚いているが、無責任だ。

 実験や訓練と違って、武力抗争の際の弾道ミサイル発射に予告などはない。防衛当局は固体燃料が使われたため、発射の事前情報が入手できなかったと弁解している。しかし北朝鮮は、ソ連・ロシアから貯蔵可能な固体燃料を20年以上も前から導入している。移動式ランチャーの採用も同様だ。

 それに飛翔時間が短い中距離弾道ミサイルは、大陸間弾道ミサイルと違って極めて迎撃が困難である。迎撃ミサイルを増強しても、守れるのは重要施設だけであり、一般国民は守れない。北朝鮮では核弾頭の小型化が進み、間もなく「核弾道ミサイル」となる。

大量破壊兵器の抑止を

 大量破壊兵器は使用後ではなく、使用の抑止が肝要だ。選択肢は、米国の「核の傘」の口約束に期待し続けるか、他の主要諸国のように巡航ミサイル、パーシングⅡクラスの弾道ミサイル保有に踏み切るかの二つである。国民に選択を求める必要に迫られている。