朴槿恵談話のトリック、政治的駆け引きに利用

どこへ行く混迷・韓国 国政介入事件の深層(中)

 「どうやら朴槿恵大統領はトリックを仕掛けたようだ。自分の退陣スケジュールを国会に任せたが、国会が話し合いでそれを決める能力がないことをお見通しだ。できる限り時間稼ぎして秩序ある退陣をする考えだろう」

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30日、朴槿恵大統領の3回目の談話発表を報じる韓国各紙(時事)

 先月29日、朴大統領が3回目の国民向け談話で事実上の辞意を表明しつつ、わざわざ「任期短縮を含む進退問題を国会の決定に委ねる」と述べたことについて韓国大手紙政治部記者出身で国会議員も務めた李東馥氏はこう指摘した。

 この時の朴大統領の様子は「比較的しっかりしていた」(韓国マスコミ)。満身創痍だった2回目談話(先月4日)とは打って変わり、「青瓦台(大統領府)の側近たちと綿密に対策を練った」(韓国政府系シンクタンク関係者)ことをうかがわせた。

 野党の党首時代、「朴槿恵の一言政治」という言葉が頻繁に登場した。長い沈黙の末に放つ簡潔な言葉が政局に大きな影響を与えたことがしばしばあったからだ。今回も朴大統領は「国会に委ねる」と言うことで、ボールを投げ返された国会が逆に朴大統領に揺さぶられる立場になった。

 与野党の利害は複雑に絡み合っている。朴大統領を早く辞任に追い込んで次期大統領選に持ち込みたい野党陣営では共に民主党と国民の党による主導権争いが始まっている。

 与党は朴大統領と距離を置き、世論の支持を得ながら新しい保守勢力結集を模索する非朴系(非主流派)と、朴大統領を支える親朴系(主流派)に分裂したまま。話し合いがまとまる状況ではない。

 ところが、世論の動向で方針転換した非朴系の“参戦”により、発議されている弾劾訴追案の表決が9日行われる見通しだ。可決されれば大統領職停止となり、その後、憲法裁判所が違法性を認めれば朴大統領は下野しなければならない。不訴追特権を失う朴大統領は被告として法廷に立つ可能性がある。

 こうした不名誉なシナリオを回避するためか、朴大統領は近々4回目の談話を発表するとの観測が浮上している。辞任時期を明言し、再び秩序ある退陣に道を開くためだ。

 談話の連発は「朴大統領が国民向けというよりは政局向け、与野党と政治的駆け引きのため談話を利用している」(保守派論客)との疑いを抱かせるに十分だ。スキャンダルをひた隠しにしておきながら政治的トリックに心を砕く姿は国民にどう映るだろうか。

 秩序ある退陣にせよ弾劾による下野にせよ、来年6月までに次期大統領選が実施されるとの見方が支配的だ。今回の国政介入事件で野党系候補が有利と言われているが、壊滅的な打撃を受けた政権、与党、与党候補の目減りした支持率がそのまま野党陣営に移動していないことに注目する識者も多い。

 今回の国政介入事件で国民は、権力中枢による公私混同や権力乱用が歴代政権同様に繰り返されていたことへの怒り、落胆に打ちひしがれている。左派系市民団体である参与連帯の朴亭垠・共同事務処長は「与野党間だけの政権交代では不十分だ。権力システムそのものを根本から変えるリーダーシップが出てこなければならない」と指摘した。

(ソウル・上田勇実)