膨れ上がるデモ、「民主主義の成熟」に疑問符

どこへ行く混迷・韓国 国政介入事件の深層(下)

 先月、韓国主要大学の一つ、中央大学のメディアコミュニケーション学科で「世論と大衆媒体」という授業が行われた。担当教授が国政介入事件と関連し次のような話をしたという。

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ソウルの光化門広場で行われたろうそくデモ=11月19日(提供・岸元玲七氏)

 「間違った権力に立ち向かってデモに参加する国民を見ると、民主主義が成熟していることが分かる。韓国は民主化から30年を経て民主主義の水準は高まったが、権力を振りかざす政治は何も変わっていない」

 しかし、何人かの学生たちから鋭い反論が出た。

 「100万人デモに参加するのが民主主義の定着だと言うけれど、参加しない人は消極的だと言わんばかりだ。デモに参加してこそ政治に関心があるように思われている」

 「平和デモというフレームがかぶせられている。あまり意味がないんじゃないか」

 朴槿恵大統領に下野を求める大規模ろうそくデモは土曜日を中心に6週連続で行われてきた。デモがほぼ非暴力だったことからマスコミはこぞってこれを高く評価している。

 ただ、そもそも事件とは関係なく反政府デモは計画されていた。特に主催者発表で100万人が参加したという3回目のデモが行われた先月12日は、戦闘的路線で知られる全国民主労働組合総連盟(民主労総)が動員に力を入れていた「民衆総決起」の当日だった。

 「民衆総決起」は歴史教科書の国定化や労働改革に反対し昨年11月に初めて行われた。この時のデモ参加者は、青瓦台(大統領府)への侵入を試みる自分たちを阻止するため築かれた警察バスのバリケードを突破するため鉄パイプで窓を破損したり、運動会の綱引きでもするようにバスに括(くく)り付けたロープを大勢で引っ張り街路樹にぶつけていた。

 「民主主義の現場を見せるんだ」と言って息子の手を引き現場に来た若い父親やお祭り気分を楽しむカップルなどが前面に出ることでデモはすっかり「市民権」を得たが、実は「人格を傷つけるような悪口や暴力は非難されるので慎みましょうと事前に広報していた」(主催者関係者)という。

 非暴力で参加者を増やし、大統領下野という目標に近づく――。学生が指摘したようにデモは意図的に「平和フレーム」がかぶせられたものだったのではないか。

 韓国は、強権的だった軍事政権が倒れて民主化を実現した時など歴史の転換点で街頭に何万もの市民が繰り出しデモをしてきた経緯がある。このため今回の大規模ろうそくデモの意味をその延長線上で眺め、「民主主義の成熟」と自負する人も少なくない。

 だが、一方で韓国のデモは右向け右で相手を追い詰める「魔女狩りに流れる欠点」(韓国政府系シンクタンク幹部)も内包している。権力の暴走はメディアや市民社会、デモによって防ぐことが可能だが、「国民の暴走」は誰にも止められない。

 崔順実という私人が大統領に影響を与え続けた国政壟断(ろうだん)に憤慨する自分たちの声こそが権力を正し、政治を動かしているという一種の直接民主主義に酔っているようにさえ見える。

 ある元韓国政府高官は「民主主義という名を掲げて民主主義を破壊する勢力がいる。これを厳しく遮断しなければ衆愚政治に転落するだろう」と警鐘を鳴らしている。

(ソウル・上田勇実)