「米韓同盟強化」嫌がる中国
迎撃ミサイル配備 韓国の決断(下)
今回のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備発表に伴う周辺国への影響と関連し、韓国メディアがこぞって報じたのが「中国の反発」だった。ある大手紙は「“天安門望楼外交”10カ月で韓中関係が荒波の中に」というタイトルの記事を掲載した。
記事は、昨年9月に中国・北京で行われた「抗日戦勝70周年記念式」に出席した朴槿恵大統領が習近平国家主席と共に天安門の望楼に並び軍事パレードを観覧した「韓中関係の絶頂」が、THAAD配備により「過去に逆戻りする可能性がある」と指摘した。
予想通り中国は強く抗議してきた。理由はTHAAD配備に伴うレーダーが中国国内の軍事施設までカバーし、米国との軍事的バランスが崩れるというものだ。しかし、中国軍事施設はすでに米偵察衛星が監視してきたため、THAAD配備によるレーダーが新たに追加されるからと言って中国が主張するような事態が発生するわけではない。
「中国が反対するのはTHAADを韓国に配備させないことが目的ではなく、米韓同盟がこれ以上強化されないよう韓国を圧迫することにある」
中韓関係に詳しい韓国国家安保戦略研究院の朴柄光・北東アジア研究室長はこう見る。
また中国は韓国が最終的に日米を中心とするアジア太平洋地域におけるミサイル防衛(MD)体制に編入されることを恐れていると言われる。「米本土、アラスカ、日本、韓国、台湾、グアムを結ぶ情報監視ラインの構築を中国は非常に嫌がっている」(朴室長)というのだ。
これまで韓国政府は、THAADはあくまで対北朝鮮ミサイル防衛が目的であり、中国の安全保障を脅かすものではないことを中国側に説明してきた。だが、中国側の不満は残ったままだ。
当初、THAAD配備の候補地には首都圏に近い平沢(京畿道)や中部の陰城(忠清北道)にある米軍基地も挙がっていた。だが、貿易を中心とする経済協力規模の大きさや盛んな人的交流、南北統一へ向けた役割などを考えた場合、「中国を過度に刺激したくない」という心理が多分に働いたようだ。最終的に他の候補地よりもさらに中国から遠ざかった南東部の星州(慶尚北道)に決められた。
在韓米軍へのTHAAD配備は米韓同盟の強化のみならず、日米韓3カ国の連携を深める効果も期待されている。ハワイ沖などで隔年実施される日米ミサイル防衛合同演習「パシフィック・ドラゴン」が先月行われたが、ここに韓国が初参加した。
演習では3カ国のイージス艦がミサイル関連情報を共有したもようで、韓国から参加したイージス艦「世宗大王」はレーダーの性能を試したという。
2012年、反日世論にぶつかって韓国側が一方的にキャンセルした日韓間の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)が仮に今後結ばれた場合、日韓は対北ミサイル防衛で情報交換を綿密、迅速に行えるようになる。
「日本は地理的に北朝鮮に近い韓国からより早く、より正確にミサイル発射後の情報を得られるし、韓国も長時間、北朝鮮を監視している日本の衛星から発射前の情報を得ることが可能になる」(西恭之・静岡県立大学グローバル地域センター特任助教)
ただ、韓国にとり「米国との関係発展と中国との関係発展はゼロサムゲームではない」(中韓関係筋)ため、日本とは認識のズレがある。韓国には日本との軍事協力に根強い抵抗感もある。中国の覇権主義に対抗する日米韓の連携強化の行方は韓国のTHAAD配備だけで担保できるものではなさそうだ。
(ソウル・上田勇実)