THAAD配備に住民猛反発もいずれ理解か

迎撃ミサイル配備 韓国の決断(中)

 「第三者が聞いたら笑うかもしれないが、本当に焼身自殺まで考えた。電磁波の影響もさることながら、THAAD(地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル」)なんてものが来ること自体が許せない。私たちにこの町から出ていけと言うのか」

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THAAD配備が発表された翌日の14日、星州郡庁舎の正門玄関でハンガーストライキを行う金恒坤郡守(左)

 こう話すのは今回、北朝鮮弾道ミサイルを迎撃するために導入が決まったTHAADが配備される南東部の星州郡(慶尚北道)に住む主婦、裵銀河さん(41)だ。裵さんは導入発表翌日の14日、郡の役場庁舎前で朝からリレーの一人デモを行っていた。

 すぐ横にいた妹の貞河さん(39)も「星州は全国チャメ(マクワウリ)生産の7割を占める産地。すでに『THAADチャメ』と陰口をたたかれ、地元農民や地域経済は壊滅的な打撃を受ける」と憤慨した。

 星州郡の中心街には「THAAD決死阻止」などと記された横断幕が至る所に掲げられていた。反対の理由はミサイル配備に伴うレーダーの電磁波が人体や農作物に悪影響を与える、というものだ。しかし、科学的にこれを証明するデータは乏しく、風評の域を出ないことに目が向かないようだった。

 ミサイル配備決定でハンガーストライキに突入した金恒坤郡守(郡の首長)は「政府が力のない地方自治体に一方的に通報した」などと反発、徹底抗戦の構えを見せている。15日に現地入りした黄教安首相は住民への説明不足を謝罪したが、激高した住民たちから卵やペットボトルを投げ付けられ、黄首相の乗った車が囲まれる事態も発生した。

 THAADが配備される星州郡の星山という山は標高383㍍で中心街から車で15分ほどの場所。北方の下界に星州郡などを一望できる。山頂付近にある空軍部隊、一名「星山砲隊」は防空基地として知られ、この敷地の一部がTHAAD配備用に在韓米軍に提供される予定だ。

 星州は東側を朴槿恵大統領の地盤である大邱広域市と隣接。北側には朴大統領の父、朴正煕元大統領の故郷、亀尾市もあり、朴大統領のお膝元も同然だ。しかし、今回のTHAAD配備で「朴大統領に裏切られた」という声も出ている。

 朴大統領はこうした民心離れを意識してか、大邱市民の宿願だったとされる市内の軍用空港移転で早期の郊外移転を進める方針を明らかにしたが、「反THAAD感情」がいつ収まるか見通せない。事前に住民への説明が一切なかったことも反発を大きくしている。

 北朝鮮と軍事的対峙(たいじ)が続く韓国にとって基地は国家安保の要である一方、地域住民との間でしばしば争いを引き起こしてきたのも事実だ。

 在韓米軍再編に伴う韓国国内の基地移転で米軍基地の全敷地面積のうち80%以上(814万坪余り)が集中するようになった平沢市(京畿道)の場合も、用地買収に反対し立ち退きを拒否する住民の抵抗が強かった。基地移転反対運動に乗じて反政府を扇動し対立を長期化させる左翼運動家が入り込んだこともあり、対立は10年続いた。しかし現在、騒ぎはほぼ終息に向かいつつある。

 米軍基地移転問題などで地域住民との疎通を図るため設置された平沢市国際交流財団の朴天洙・韓米協力チーム長は騒ぎが収まった理由について「最終的に国家安保に対する住民の理解が得られたことが一番大きい」と振り返る。

 星州へのTHAAD配備も、いずれ住民がその大義を受け入れる日が来るのだろうか。

(星州=韓国南東部・上田勇実、写真も)