韓国総選挙ショック、消えた与党大統領候補

韓国総選挙ショック(上)

 「深く反省し、自粛し、省察する時間を持ちたい」--今回の韓国総選挙で注目区の一つに挙げられていたソウル市鍾路区。与党セヌリ党の公認候補として出馬し、第1野党「共に民主党」の重鎮、丁世均氏に敗れた呉世勲氏は開票結果を受け、力なく敗戦の弁を述べた。(ソウル・上田勇実、写真も)

国連総長待望論が再浮上も

 この選挙区は青瓦台(大統領府)や主要省庁が入る政府総合庁舎を抱え、これまでに尹潽善、盧武鉉、李明博の3人の歴代韓国大統領が大統領になる前に国会議員として当選を果たし、「大韓民国政治1番地」と呼ばれてきた。

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与党惨敗のニュースを1面で伝える14日付の韓国主要紙

 呉氏も直近の世論調査で大統領候補としての支持率が保守派の中でトップに躍り上がった。ソウル市長時代に義務教育過程の給食無償化に反対し、住民投票で敗れ辞任して以来、5年間の「充電期間」を経た政界復帰への挑戦だった。

 「ソウル全体、セヌリ党の選挙全体を牽引(けんいん)できる象徴的な場所から出馬してほしいという党の意向」(姜炫準・選挙事務所広報担当)を背負い、当初はその知名度から世論調査で丁氏に大きく水をあけ当選予想の声も少なくなかった。それだけに敗北による落胆は大きい。

 呉氏の予想外の落選に象徴されるように、与党は大方の予想を覆し過半数獲得はおろか最大政党の座も「共に民主党」に明け渡した。14日付韓国各紙は与党の敗因について経済失政などに対する「朴槿恵政権への審判」、公認選びの際に目立った朴大統領に近い「親朴系グループの傲慢さへの審判」などを指摘した。

大統領への道が険しくなったのは金武星党代表もまた同じだ。選挙で勝利し、大統領選に向け代表職を勇退する予定が狂い、選挙敗北で引責辞任に追い込まれた。またここ数年、大統領候補として名が挙がってきた金文洙前京畿道知事も今回落選し、政治的影響力の低下は必至。与党には「有力な大統領候補が消え去った」(政治評論家)脱力感が漂う。

 危機感の表れか与党内では今年で任期満了となる潘基文・国連事務総長への待望論が再び浮上する可能性が取り沙汰されている。

「勝利半、敗北半」の「共に民主党」

 一方、野党系候補一本化に失敗しながら単独で与党を上回る議席獲得に成功した「共に民主党」は「想定外の勝利」に沸いている。今回の当選者からは早くも「野党勝利は政権交代への信号」(金慶洙氏、慶尚南道金海市)、「次期大統領選の勝利に貢献したい」(陳永氏、ソウル市竜山区)と言った声が上がっている。

 だが、大統領選で政権交代を果たす道のりは平坦(へいたん)ではない。圧倒的に強かった地盤の光州市・全羅道(南西部)で、同党を割って結党したばかりの「国民の党」に大敗を喫し、「勝利半、敗北半」が実情だ。

 この地域で支持を得られなければ政界引退し、大統領選にも挑戦しないとまで公言した「共に民主党」の有力大統領候補、文在寅氏は「湖南(光州・全羅道)が私を捨てたのか、もう少し謙虚に努力し待ちたい」と複雑な胸中を明かした。

 今回の選挙で第3党として躍進し、今後、政局や大統領選などでキャスチングボートを握る可能性が高まった「国民の党」を率いる安哲秀代表の場合、野党系大統領候補の中で取りあえず有利な立場を確保したといえる。

 今後、野党再編や候補一本化など大統領選をめぐる駆け引きが予想されるが、野党系候補を文在寅氏に譲歩し涙を呑(の)んだ前回大統領選の轍(てつ)は踏めない。

 実際にふたを開けてみると予想外の結果に驚かされた総選挙だったが、勝者も敗者も来年12月の大統領選に向け早くも動きだしている。