朝鮮総連扱う「未来韓国」 日本に韓国共産化の基地

実態を知らない韓国人社会

 「朝鮮総連を育てたのは日本だ」

 元駐日公使で統一日報主幹の洪瑩(ホンヒョン)氏が韓国の週刊誌「未来韓国」(4月4日号)に載せた記事でこう主張している。

 日本在住の韓国・朝鮮人の組織には、韓国系の「在日本大韓民国民団」(民団)と北朝鮮系の「在日本朝鮮人総連合会」(朝鮮総連)がある。洪氏によれば、この二つの組織はまったく異なった性格を持っている。民団は単に在日韓国人の集まりなのに対して、朝鮮総連は「僑胞団体に偽装した朝鮮労働党の在日支部」であり、「敵地日本から大韓民国を攻撃してきた基地」ということだ。

 韓国社会の各層に浸透している「従北勢力」を育てたのも、洪氏に言わせれば、「まさに朝鮮総連の任務であった」ということになる。

 韓国は1980年代の「民主化」を迎えるまでは徹底した「反共国家」であり、共産主義の書籍さえ入手はおろか閲覧すらできず、北朝鮮情報に接することもできなかった。その時期に「南進赤化統一」を掲げる北朝鮮は朝鮮総連を通じて韓国内に工作員を送り込み、ついには大統領銃撃事件(文世光(ムンセグァン)事件:1974年)まで起こしたのだ。この時、大統領を狙った弾丸は陸英修(ユギョンス)夫人に当たり、命を奪った。

 文世光は“日本で育ったテロリスト”だ。大阪出身の文は高校時代から「金日成(キムイルソン)選集」「毛沢東語録」を読みふけり、朝鮮総連幹部から、「朴正煕(パクチョンヒ)大統領を暗殺して、人民蜂起の起爆剤となれ」と扇動され、日本人の戸籍を盗用して旅券を作り、韓国に潜入し凶行に及んだ。

 当時、日本政府は事件を「共産思想に傾倒した在日韓国人の単独犯行」と結論付けたが、韓国政府は「北朝鮮の指令を受けた朝鮮総連による、韓国共産化のための組織的大統領暗殺計画」とし、日本政府に協力者の引き渡しを求めたが、両政府の立場の差は埋まらなかった。

 自由主義の日本では、共産主義書籍だろうが、金日成選集だろうが、自由に手に入る。また在日韓国・朝鮮人も多く、オルグ対象を選りすぐることができた。日本政府はそのことに気づいていなかったわけではない。破壊活動防止法(破防法)は朝鮮総連を監視する根拠である。

 だが、同時に日本政府は朝鮮総連を“助けて”もいる。1959年から84年まで続けられた「北送事業」(在日朝鮮人の帰還事業)がそれだ。在日朝鮮人を北朝鮮に“送り返した”のだ。これは当初「人道」の覆いが掛けられていたが、「在日同胞約9万3000人を金日成に奴隷労働力として送った」(洪氏)のが実態だった。

 日本が自由の中でぬくぬくと朝鮮総連を育ててきた、と主張する洪氏の目的は何だろうか。韓国の防衛である。韓国は朝鮮総連だけに狙われているわけではない。核ミサイルや迫撃砲などの武器、北から浸透してくる工作員の脅威に晒(さら)されている。

 米韓軍事同盟はもちろん、日韓の間でも協力体制が必要なことは、最近の北朝鮮の核実験、ミサイル発射で一層切実になってきている。

 日本も集団的自衛権行使ができるようになり、韓国との軍事情報秘密保護協定が必要な状況だ。しかし、韓国は協定締結に躊躇(ちゅうちょ)している。2012年6月、調印直前に韓国がドタキャンしてきた。韓国の対応に批判が集中したが、韓国がストップを掛けた理由が、日本自体が秘密情報を保護できるかどうかと疑念を抱いたからだ。つまり、国内に朝鮮総連を抱えたままの日本、スパイ防止法さえない日本と軍事秘密を共有できるだろうかという懸念であった。

 洪氏は、「結論から言えば、筆者は韓米日の安保協力体制が北大西洋条約機構(NATO)のように強力な同盟体制に発展することが望ましいと考える」と述べる。そこに「障害」として横たわっているのが朝鮮総連だというわけだ。

 洪氏が韓国の週刊誌にこの記事を書いた理由は、朝鮮総連の実態を日本だけでなく、韓国も知らないでいる、という危機感からであることも知っておく必要がある。

 編集委員 岩崎 哲