北ミサイル発射、日韓を「核の人質」にする気か


 北朝鮮が黄海と日本海に向け立て続けに短距離ミサイルを2発ずつ発射した。2回目の発射は約1年ぶりとなる弾道ミサイルで、国連安全保障理事会の対北朝鮮決議に違反するものだ。バイデン米政権が北朝鮮政策の見直しを進める中、再び米国を対話の場に呼び寄せ、制裁緩和の道を開こうとの考えだろう。

戦術核の開発を明言

 黄海に向けて発射されたのは巡航ミサイルで、バイデン大統領はこれを深刻な挑発と受け止めなかった。すると北朝鮮はそのわずか4日後、弾道ミサイルを発射。バイデン氏は「事態をエスカレートさせるなら、それに応じた対応をする」と北朝鮮を非難した。相手の出方を見極めながら揺さぶり、関心を一挙に引き寄せる北朝鮮お得意のやり方だ。

 バイデン氏は北朝鮮との対話について「準備はできている」としつつ「非核化が条件」とくぎを刺した。北朝鮮の非核化については菅義偉首相が国会答弁で、完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄、いわゆるCVIDを求めていくと明言した。米国に対してもこの方針がぶれないよう働き掛ける必要がある。

 今回、北朝鮮が発射した短距離弾道ミサイルはこれまで発射されたことがない新型で、低空飛行で変則的な軌道を描き、迎撃が困難とされるロシアの弾道ミサイル「イスカンデル」の改良型との見方が出ている。

 金正恩朝鮮労働党総書記は1月の党大会で、実際に戦場での使用を想定した戦術核の開発を急ぐと強調していた。その直後の軍事パレードでイスカンデル改良型とみられるミサイルが登場した。

 仮に今回発射した弾道ミサイルに小型・軽量化された核弾頭を搭載した場合、韓国は北朝鮮による核攻撃の脅威にさらされる。さらにこれより射程が長い中距離弾道ミサイル「ノドン」などに搭載すれば、今度は日本のほぼ全土が核攻撃の的になる。

 北朝鮮は米本土を射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)で直接脅かさなくても、短中距離弾道ミサイルで日韓を「核の人質」状態に陥れ、米国を揺さぶる恐れが出てきた。

 もちろん、核攻撃能力を有することと実際に核攻撃に踏み切ることは全く別だ。核攻撃の応酬に事態を発展させるつもりなど北朝鮮には毛頭ないはずだ。北朝鮮の目的はあくまで制裁解除と体制維持だ。日韓への核攻撃能力は米国との交渉を有利にするためのカードだろう。

 米朝対話が再開した場合、バイデン政権がどこまで北朝鮮に圧力を掛けられるかがカギを握る。国連安保理北朝鮮制裁委員会は緊急会合を開き、議長国のノルウェーは今回の発射を非難する声明を発表したが、新たな制裁の実施では中国とロシアが慎重な態度を示した。残念ながら、国連レベルでの制裁強化はまだ見通せない。

日米韓で北に圧力を

 その意味で、マネーロンダリング(資金洗浄)や海上の違法な船荷積み替えである「瀬取り」など制裁回避の取り締まり強化は不可欠だ。日米はもとより、対北融和策を取る韓国も説得して3カ国が連携し、対北圧力を強めていくべきだ。