米の北接触試み 完全非核化を目標とせよ
バイデン米政権が2月中旬から北朝鮮当局との接触を試みていることが明らかになった。いよいよ核・ミサイルをはじめとする北朝鮮問題に本格的に乗り出すようだ。トランプ前政権で失敗に終わったトップダウン式の核交渉の反省から、制裁解除などをカードに北朝鮮が非核化に応じざるを得ない綿密な形での対話が不可欠となろう。
交渉は段階的要求か
接触の試みはニューヨークにある北朝鮮国連代表部など幾つかのチャンネルで行われたという。まだ対話の糸口を掴(つか)む段階だが、対北政策の方針は大方固まりつつあるのだろう。
トランプ氏は金正恩朝鮮労働党総書記と3度首脳会談を行ったが、非核化どころか北朝鮮は核兵器を増産し続けている。
今月も国際原子力機関(IAEA)の理事会で北朝鮮がウラン濃縮関連の活動を継続していると報告されたほか、米軍司令官は議会公聴会で北朝鮮が近い将来、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験をする恐れがあると警告した。
バイデン政権は北朝鮮に対し最初から完全非核化という高いハードルを要求せず、北朝鮮が応じる可能性がある核物質生産の凍結など段階的な非核化を求めながら交渉するとみられる。
一方、北朝鮮は老朽化した寧辺核施設の解体や一部核兵器の放棄などで米国から制裁解除を引き出そうという従来の立場を崩さない可能性がある。正恩氏は1月の党大会で核の正当性を何度も強調し、国内外に向け核放棄しないと宣布した状況だ。
ただ、国際社会による制裁や新型コロナウイルスの感染防止のための中朝国境封鎖などで、特に体制を支えるいわゆる「宮廷経済」が深刻な打撃を受けていると言われる。一刻も早く米国から制裁解除を引き出したいのが本音とみられ、その意味で米国は北朝鮮に対し交渉で優位に立つことも予想される。
問題は北朝鮮が米本土への核攻撃能力を凍結するか放棄した時点で、米国が満足してしまう恐れがあることだ。隠蔽(いんぺい)したものも含め依然として多くの核兵器と核物質を保有した状況が続けば、日本は深刻な脅威にさらされ続けることになる。
この数年間、北朝鮮はかなりの量の核を増産させたとみられている。核兵器や核物質をすでに十分確保している場合、米国が要求する一部核の放棄に応じることは難しくない。そうすることで残り大半の核を温存する狡猾(こうかつ)な戦略を思い描いているのであれば要注意だ。
日本はこうした北朝鮮の核脅威に直面し続けなければならないという最悪のシナリオまで想定し、どこまでもバイデン政権に北朝鮮との核交渉の目標を限りなく完全非核化に近づけておくよう働き掛ける必要がある。
もう一つの懸念材料は韓国の文在寅政権の動きだ。再び米朝対話の仲介役を買って出ることで、見せ掛けの非核化ショーが再現されるのは御免だ。非核化はさらに遠のく。
拉致解決へ周到な準備を
米朝対話に連動して動き出す可能性があるのが日朝対話だ。待ったなしの拉致問題解決に向けどうアプローチするのか。周到な準備が必要だ。