南北共同宣言2年 成果なかったうわべの平和


 韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が平壌で行った両氏による3度目の首脳会談で、南北関係や北朝鮮非核化などをめぐり合意した平壌共同宣言に署名してから2年になる。

 日本をはじめ国際社会は北朝鮮が核放棄を進め、朝鮮半島に真の平和と安全がもたらされる出発点になることを期待した。だが、残念ながら北朝鮮は至る部分で合意を反故にし、特に軍事的脅威が一向に減らないという正反対の結果を生んでいる。

非核化の意志ない北

 共同宣言は2018年4月、南北軍事境界線にある板門店で開かれた南北首脳会談での合意や同年6月にシンガポールで行われたトランプ米大統領と正恩氏による初の米朝首脳会談での合意を受け、それらの履行を促す性格を帯びていた。

 しかし、北朝鮮は最大の焦点である自国の非核化を「朝鮮半島の非核化」と曖昧な表現でぼかし、しかも合意項目の末尾に記述させるという消極的な態度を見せた。実は正恩氏には最初から非核化の意志がなかったと疑うに十分な状況だった。

 当時、北朝鮮は核実験や長距離弾道ミサイル発射などで周辺国に深刻な脅威を与えていた強硬姿勢から突然、手のひらを返すように融和路線に舵(かじ)を切り、文氏やトランプ氏と立て続けに首脳会談を重ねた。その狙いが完全非核化に応じないまま国際社会による制裁を解除させ、米国から体制保証を取り付けることにあったことは明白だ。

 会談が開かれるたびに北朝鮮の真意を疑う見方はあったが、朝鮮半島和平に形式的であっても貢献した実績を残そうとしたトランプ氏も、米朝の仲介役を買って出て南北平和を定着させようとした文氏も、正恩氏に非核化の意志があるか否か突き詰めなかった。ボタンの掛け違いはここから始まったと言える。

 北朝鮮の路線転換でつくり出されたうわべの平和ムードは結局、北朝鮮を非核化に向かわせられなかった。

 昨年2月、ハノイでの2回目の米朝首脳会談が決裂して以降、北朝鮮は自分たちが譲歩できる一部非核化では米国が制裁緩和に応じないことを悟ったとみられる。今度はトランプ氏を刺激しない範囲内で短・中距離ミサイルを繰り返し発射した。最近は東部の造船所で潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射準備を進めている可能性も指摘された。

 各種ミサイルに核弾頭を搭載して発射すれば、北朝鮮は物理的にはいつでも日本をはじめ周辺国を核攻撃できるという深刻な脅威は変わっていない。

 にもかかわらず韓国政府の姿勢は驚くほど楽観的だ。共同宣言2年という節目を前に、国家安全保障会議(NSC)を開き、朝鮮半島の平和プロセスを進展させる方法を協議した。対北朝鮮政策の責任者を交代させ、より融和的な政策が取られるとの観測も広がっている。

北ペースの対話は御免

 北朝鮮は今後、11月の米大統領選や再来年の韓国大統領選を視野に対話に乗り出す可能性がある。完全非核化を曖昧にし、逆に事態悪化を招く北ペースの対話はもう御免だ。