資産現金化 韓国は思い止まるべきだ
元徴用工訴訟の韓国大法院(最高裁)判決で、賠償を命じられた日本企業の韓国内資産に対する差し押さえの効力が発生し、資産の現金化が可能になった。現金化された場合、日本企業に実害が生じる事態となり、日韓関係に深刻な亀裂が生じるのは避けられない。現金化を思い止(とど)まるよう韓国に強く望む。
対日関係損ねる文政権
資産現金化をめぐっては韓国の裁判所が被告の日本製鉄に対し、差し押さえを認めたことを伝える書類が同社に届いたと見なす「公示送達」の手続きに踏み切り、予告していた一定期間が経過したことで効力が発生した。韓国の裁判所が売却命令を出せば現金化が可能になる。
現金化が問題視されるのは大きな外交問題に発展する恐れがあるためだ。一昨年の判決自体、1965年の日韓請求権協定に違反し、それを放置し続ける韓国の文在寅政権に日本は国際法違反の状態を是正するよう繰り返し求めてきた。だが、文政権は司法判断の尊重を理由に政府責任を回避し続けている。現金化はそれに加え実害を生じさせるものであり、到底受け入れられない。
日本製鉄は差し押さえ命令の効力発生に関し、即時抗告をする方針だ。当然だろう。
それにしても、文政権の対日姿勢にはがっかりさせられる。2015年のいわゆる日韓慰安婦合意に基づき設立された韓国の「和解・癒やし財団」を解散させるなど、一部の被害者感情や反日デモ団体の主張を受け入れる形で2国間合意を一方的に破棄した。元徴用工判決に対する姿勢も同様であり、日本との信頼関係を損ねる行為を平然と繰り返していると言わざるを得ない。
幸い、実際に現金化されるまではさらに数カ月かかるようだ。資産評価額の鑑定がまだ終わっていない上、売却の方法をめぐっても裁判所が原告の意向を踏まえた上で幾つかある選択肢の中から選ぶため、時間を要する。原告支援者たちの中には日韓両国政府の交渉を見極めようという慎重派もいるようだ。
韓国側からは現金化を回避するため、原告への金銭的補償案などが提案されたが、日本側に支払いを求めていたり、法案審議の見通しが危ぶまれていたりするなど、すぐに実現するとは思えない。原告が賠償を強く求めれば、現金化に突き進む可能性は依然大きい。
菅義偉官房長官は現金化が可能になったことを受けて「あらゆる選択肢を視野に毅然(きぜん)と対応したい」と述べた。現金化された場合、対抗措置も辞さない構えだ。
自民党保守派は韓国に対する実効性の高い制裁を科すことを求める決議案をまとめた。日本としてはこれ以上、日本の立場を意に介さない韓国のやり方を見過ごすわけにはいかない。
利益なき報復の応酬
日本が対抗措置を講じた場合、韓国はさらなる対抗措置を検討しているとも伝えられている。報復の応酬は韓国内の反日感情を刺激するだけで、安全保障問題を考慮しても日韓両国にとって何の利益にもならない。文氏にはいま一度、対日関係改善に動きだすよう求めたい。