WTOで日韓応酬 文政権は政治攻勢を止めよ


 日本が韓国に対して半導体材料など3品目の輸出管理で運用を厳格化させたことをめぐり、両国が世界貿易機関(WTO)を舞台に相手国批判の応酬を繰り広げている。
 厳格化は不当だと主張する韓国・文在寅政権は日本側の主張に耳を傾けず、一方的にWTO提訴に踏み切るなど政治的攻勢が目立つ。再び反日路線を強めるのではないかとの危惧を抱かざるを得ない。

安保上の懸念払拭を

 昨年7月に日本が輸出管理の運用を厳格化させたのは、3品目が軍事転用の恐れがある物資や技術と関係していることに起因する。韓国が日本の協議要請に応じず、事態を放置したことも大きかった。

 だが、韓国はこれを大法院(最高裁)による元徴用工判決に対する日本の「経済報復」と位置付け、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄までちらつかせた。新型コロナウイルスの感染拡大などでこの問題は事実上、棚上げされていたが、4月の総選挙で与党が圧勝したことなどもあって韓国側が動き出したようだ。

 韓国は日本が要求する輸出管理体制の改善点は全てクリアしたと主張している。だが、果たしてそうか。確かに人員増員や制度整備はなされたようだが、安全保障上の懸念を払拭(ふっしょく)できる実態や実績は確認できていない。運用を元に戻すのはまだ早い。

 運用厳格化を緩和させるか否かは問題を指摘された韓国側が決めるものではなく、問題ありと認識した日本側が判断することだ。「懸念はなくなった」と自ら主張し、それを受け入れなかったとしてWTOでの紛争解決手続きを再開させた韓国の姿勢は大人気なく、違和感を覚える。

 その後、日本の貿易政策を審査するWTOの会合でも韓国の代表は輸出管理厳格化について「正当な理由がなく、日本が主張する根拠のない理由は全て無効だ」と従来の主張を繰り返した。これに対し日本は、厳格化は「韓国の体制と運用の脆弱(ぜいじゃく)さに対する懸念」に基づき実施されたと反論した。

 韓国は厳格化で韓国企業が損害を被ったと主張するが、日本は安全保障上、問題のない一部の輸出については許可しており、サプライチェーンに大きな影響はないと主張している。

 こうした双方の応酬は生産的でないばかりか、国民の相手国に対する感情をいたずらに悪化させる。文氏は就任以来、歴史認識問題をめぐりことごとく国民感情を煽るように反日路線を取っている。そうした政治攻勢が雪だるま式に日韓関係を悪化させたという認識は韓国識者の間にもある。だが、これは経済や貿易にまで波及させてはならない問題であるはずだ。

 WTOの次期事務局長選挙に韓国人が立候補したが、今回の輸出管理問題に政治的影響力を及ぼそうとの思惑が働いているとすれば遺憾だ。

不毛な紛争を避けよ

 韓国によるWTO提訴は今月29日の会合で紛争処理小委員会(パネル)の設置が決まる見通しで、いずれ審理が始まる。不毛な紛争を避けるためにも、文政権は早急に輸出管理で日本との信頼回復に乗り出すべきだ。