戦略的に重要なグリーンランド

アメリカ保守論壇 M・ティーセン

トランプ氏が購入提案
デンマークは一蹴

マーク・ティーセン

 

 トランプ大統領がグリーンランドの購入に興味を示したことを「ばかげている」とデンマークのフレデリクセン首相が一蹴したことに、トランプ氏は怒っている。フレデリクセン氏の反応は驚くようなものではないはずだ。1946年にトルーマン米大統領が、グリーンランドを買おうとしたとき、バーンズ国務長官は、この提案はデンマーク当局者らにとって「衝撃だった」ようであり、侮辱と捉えたようだと記していた。

 これは大変な間違いだ。提案の中でトルーマンは、グリーンランドの一部と、アラスカのポイントバローの一部の交換を申し出た。それには原油の採掘権も含まれていた。デンマークはこの申し出を、トランプ氏の提案と同様、拒否した。67年、ポイントバローで米国史上最大の油田が見つかった。デンマークにとって残念なことだ。

◇豊かな天然資源

 この過去の失敗を思い出せば、デンマークの指導者らもトランプ氏の話を聞くぐらいのことはしてもいいのではないかと思う。トランプ氏のグリーンランド購入案は、ばかげてなどない。グリーンランドにはすでに米軍の基地があり、基地設置のために購入する必要はない。しかし、グリーンランドには、亜鉛、鉛、金、鉄鉱石、ダイヤモンド、銅、ウランなど大量の未開発の天然資源が眠っている。デンマークには採掘する能力も、意思もない。

 プラセオジム、ジスプロシウムなどのレアアースも手つかずのまま眠っている。レアアースは、電気自動車、スマートフォン、レーザー発振器などあらゆるものの生産に欠かせない。米国は現在、中国からこれらのレアアースの多くを入手しており、中国に依存している状態だ、ウォールストリート・ジャーナル紙は、中国が、米国との貿易戦争でレアアースなどの輸出を禁止する可能性があると報じた。さらに中国は、グリーンランドのレアアース市場を独占しようとしている。グリーンランドを買うことで、これらの戦略的に重要な鉱物を米国が手中に収めることになる。

 しかし、グリーンランドを米国にとってさらに重要にしているのは、地球温暖化だ。北極海の氷が解けるのは避けられない。北極に新たな航路が開かれ、商用、軍用両方の船舶が航行することが可能になる。ポンペオ国務長官は5月、フィンランドで行われた北極評議会閣僚会議で演説し、「海氷は着実に減少し、通商のための新しい航路、新しい機会が開かれる。これによって、アジアと欧米の間の航行に必要な時間が、20日も短縮できる可能性がある」と指摘した。さらに、「(新たに出現する)北極海航路が、21世紀のスエズ、パナマ運河になる可能性もある」と述べた。

 その通りだ。ニューヨーク・タイムズ紙は最近、海氷が解け、「北極海航路が航行しやすくなり、航行時間が3週間以下に短縮されるようなことがあれば、今後数十年間で、北極海海運が南方の航路よりも魅力的になる可能性がある」と報じた。

 米国と同盟国は、北極海航路がロシアと中国の支配下になることを望んではいない。ポンペオ氏は大西洋評議会で「北極海が、南シナ海のようになり、軍事化され、領有を主張されることを望んでいるのか」と述べた。グリーンランドを購入すれば、米国がこれらの新たな戦略的航路の安全を確保しやすくなる。

◇過去に売却例も

 統合参謀本部議長は1946年にトルーマンに、グリーンランドは「デンマークにとって全く価値がない」と言った。デンマークは今、そのように思っていないかもしれない。しかし、気分を悪くするより、トランプ氏の提案を受け入れるべきだ。デンマークが過去に米国に領土を売却したことはある。1916年に、デンマーク領だった西インド諸島をウィルソン大統領に売却した。現在のバージン諸島だ。デンマークは過去に領土の一部が売りに出されたことを経験しており、価格交渉くらいはしてもいいのではないか。

 グリーンランドの購入は、大統領が土地を獲得してきた米国の長い歴史とも符合する。1803年に、ジェファーソン大統領は、フランスからルイジアナを買った。19年にモンロー大統領がフロリダをスペインから買った。54年には、ピアース大統領がガズデン購入で、アリゾナ州とニューメキシコ州の一部をメキシコから買った。67年にアンドリュー・ジョンソン大統領は、ロシアからアラスカを購入した。98年、マッキンレー大統領が、スペインからフィリピンを購入した。1903年にセオドア・ルーズベルト大統領が、パナマ運河をパナマから、グアンタナモ湾をキューバから租借した。デンマークがグリーンランドを売らないなら、借りるということもあるかもしれない。

 トランプ氏は19日、ツイッターに、グリーンランドの沿岸の小さな小屋の間にそびえ立つトランプ高層ビルの写真を投稿し、「グリーンランドでこんなことはしないと約束する」と書いた。しかし、グリーンランド購入案は冗談ではない。戦略的、経済的に大きな意味があることだ。

(8月23日)