EU新指導部構築が難航、課題は加盟国の結束強化
欧州連合(EU)は5月末の欧州議会選挙の結果を受け、新体制への移行を進めている。英国のEU離脱を10月に控える中、変化した欧州議会の勢力図に合わせた新たな指導体制の構築が難航している。国家を超えた連合の先駆けでもあったEUは、世界の変化の中で難問に直面している。(パリ・安倍雅信)
強まる自国利益優先の傾向
EUはもともと日米の経済攻勢に対抗するため、欧州諸国が結束することで存在感を示そうと深化・拡大を進めてきた。ところが中国が台頭する中、トランプ政権の登場によってグローバル化が足踏み状態となり、EU諸国も国益重視、国民生活重視の内向き姿勢に傾いている。そのため、EUは国民生活の向上にメリットがあるかが問われる一方、国を超えた規制を迫ってきたEUエリート官僚への不信感は高まっている。
EU首脳会議での欧州委員長ポスト選任は二転三転し、当初は名前も出ていなかったドイツのフォンデアライエン国防相が選任された。
全会一致で首脳会議が提案したフォンデアライエン氏案に対して、最終決定する欧州議会では疑問が投げ掛けられ、いまだ不透明な状況にある。実は欧州議会選で議席を伸ばしたEU懐疑派の右派やポピュリズム政党の中には、フランスの右派・国民連合のように欧州委員会そのものを廃止する公約を掲げるものもあった。
英国の離脱難航を目の当たりにし、EU懐疑派は離脱を叫ぶよりも現実的なEU改革を提案する戦略に転じている。また、伝統的ポピュリズム政党の反移民政策よりも、国民生活の向上に政策の軸足を移している。仏国民連合は生活者支援の充実などを公約に掲げ、左派支持者の票を奪い、前回2014年の欧州議会選挙同様、トップの座で勝利した。
欧州議会は3日、イタリア出身の社会民主系のデイビッド・サッソリ議員(63)を新議長(任期2年半)に選出した。だが、中道右派の欧州人民党グループや中道左派の社会・民主進歩同盟など、主要3大会派全ての支持は得られなかった。
首脳会議では慣例に従い、議会最大会派の欧州人民党グループからフォンデアライエン氏が欧州委員長、中道新リベラル会派のミシェル・ベルギー首相がEU大統領、中道左派のサッソリ氏が欧州議会議長になることで3大会派のバランスを取った形だ。ところが、フォンデアライエン氏のお膝元のドイツでは、連立政権の一角を成す社会民主党が不満を表明し、連立解消をちらつかせている。
今回の議会選では、欧州人民党グループとは別に、従来の欧州自由民主同盟グループにマクロン仏大統領が結成した仏与党・共和国前進が加わり、新リベラル会派のRenew Europeが第3勢力となった。さらに議席を伸ばしたポピュリズム政党や環境政党が加わり、会派の再編が行われた。
環境政党・緑の党が委員長人事をめぐって蚊帳の外に置かれた感があり、さらには中・東欧の加盟国の意見が反映されていないとの不満もある。そのため、トゥスクEU大統領は4日、女性であるフォンデアライエン氏支持の理由の一つにジェンダーバランスを挙げ、支持を呼び掛けた。
女性では、欧州中央銀行(ECB)の次期総裁に、フランス人のラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事を選出することで、独仏のバランスを取った形だ。だが、独仏が主要ポストを占めることへの不満も出ており、ジェンダーバランスだけでは納得を得られていない。
EU新体制の課題は、まずは加盟国の結束強化にある。背景には過去約10年間、ギリシャ財政危機以降のユーロ不安や大量移民・難民の流入で、加盟国間の対立が露呈したことが挙げられる。同時にEU懐疑派のポピュリズム勢力が台頭し、米中貿易摩擦の影響で加盟各国は自国の利益優先に傾いていることも否定できない。
懸念された英国の離脱によるドミノ的な加盟国の離脱現象は防ぐことができているものの、EU執行部の意思決定や権限について抜本的改革が求められている。フランスの黄色いベスト運動に象徴されるように、一般市民の激しい抗議運動は既存権力を追い詰めており、ユーロ危機以来の緊縮財政の継続も困難が予想され、課題は山積している。

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