独カトリック教会で初の女性ストライキ

 ドイツのローマ・カトリック教会で「マリア2・0」運動と呼ばれるグループが5月11日から1週間、女性たちにも聖職の道を開くことを要求して「教会ストライキ」を行った。カトリック教会で女性信者たちによるストは初めてで、大きな波紋を呼んでいる。
(ウィーン・小川 敏)

100カ所以上「女性にも聖職の道を」
他国への波及は時間の問題

 バチカンニュースが報じたところによると、ドイツ国内の100カ所以上で11日、ストライキが始まったが、契機はミュンスター教会の信徒5人のイニシアチブによるもの。独カトリック教会の二大女性組織「独カトリック教徒女性連盟」(Kfd)と「独カトリック教徒女性同盟」(KDFB)は「マリア2・0」運動のストライキ週間を支援した。

フランシスコ・ローマ法王と欧州連合各国首脳

2017年3月24日、バチカンで、記念撮影に臨むフランシスコ・ローマ法王と欧州連合(EU)各国首脳=ローマ法王庁提供(AFP=時事)

 具体的には、18日まで女性は教会に入らず、名誉職的な聖職に従事しなかった。12日には、多くの教会前で女性たちが独自の礼拝を行い、①聖職者による未成年者への性的虐待問題に直面する教会の刷新②教会の権力構造の改革③聖職者の独身制撤廃――などを要求した声明を読み上げた。

 KDFB元会長で「独カトリック教徒中央委員会」(Zdk)のクラウディア・リュキング・ミヘル副会長は、第2ドイツテレビ(ZDF)とのインタビューで「われわれの忍耐はもう終わりに近い。われわれにはもはや十分な時間がない。友人や子供たちが女性を排斥する組織にどうして所属しているのかと聞くだろう」と語った。

 一方、保守派団体や独カトリック教徒のインターネットポータルサイトでは、女性たちの要求に厳しい批判が出ている。女性の聖職者叙階は故ヨハネ・パウロ2世(在位1978~2005年)の1994年の使徒的書簡に反すると主張している。同書簡では「教会は女性を神父に叙階する権能を持っていない。これは主イエスの決定であって…」と明記されている。

 教会指導者の中でも女性聖職については意見が分かれている。フライブルク教区のシュテファン・ブルガー大司教は、「ヨハネ・パウロ2世の書簡内容を遵守(じゅんしゅ)すべきかどうか問題だ」と語り、多くの女性信者が教会の指導的な位置を占めることを支持している。

 カトリック教会では女性軽視が続いてきたことは事実だ。「教会の女性像」の確立に中心的役割を果たした人物は、古代キリスト教神学者アウレリウス・アウグスティヌス(354~430年)だ。彼は「女が男のために子供を産まないとすれば、女はどのような価値があるか」とつぶやいている。そこには明確な男尊女卑の思想が流れている。中世時代に入ると、「神学大全」の著者のトマス・アクィナス(1225~1274年)は、「女の創造は自然界の失策だ」と言い切っている。現代のフェミニストが聞けば、真っ青になるような暴言だろう。この時代になると、カトリック教会には女性蔑視が定着する。魔女狩りもその表れだろう。

 キリスト教会の女性蔑視思想の背景には、人類の原罪が堕落天使ルシファーに誘惑されたイブからアダムに伝達されたという「失楽園の話」があるからだ。イブが初めに罪を犯し、アダムがそれを継承した。「失楽園の話」を信じるキリスト教会は「罪は女性から発生した」と主張してきた。

 「女性の権利」回復運動での歴史的成果は、「聖母マリア無原罪説」が教会の教義(ドグマ)となったことだろう。第255代法王のピウス9世(在位1846~1878年)は1854年、「マリアは胎内の時から原罪から解放されていた」と宣言したのだ。女性が原罪から解放され、神に復帰する道が開かれた瞬間だ。ウーマンリブ史上最大の成果といっても言い過ぎではない。

 ドイツはマルティン・ルター(1483~1546年)の宗教改革の発祥地だ。そのドイツで今、カトリック教会の女性たちが聖職者の道などを要求するストライキを始めたわけだ。ドイツの女性信徒たちの運動が他の国の教会に波及するのはもはや時間の問題だろう。