尊厳死か延命治療か


地球だより

 フランス北部ランスで10年間生命維持装置につながれている植物状態のバンサン・ランベールさん(42)は最近、一度延命治療が中止され、数日で人生を終えるはずだった。しかし、パリの裁判所の命令で治療が再開され、元の状態に戻されている。

 脳に重度の損傷を負い四肢がまひしているランベールさんの延命問題は、10年間にわたり論議を呼んだ。安楽死に反対するカトリック信仰を持つ両親の強い要求で延命治療が施されていたが、妻ラシェルさんは「夫は延命治療を望んでいなかった」として尊厳死を要求し、法廷闘争にまで発展した。

 フランスは現在、患者の状態によって「消極的安楽死」法が適用できる一方、医師が人の生命を終わらせる権限は制限されている。今回の延命治療再開の裁判所命令には、国連の「障害者の権利委員会」が今月、フランス政府に対し、法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう求めていたことがあった。

 ランベールさんの命に別条はないが、国連の調査が終わるのには数カ月はかかるとの見方もある。少なくともそれまでは延命維持装置は外されないことになり、両親や治療中止に抗議する人々は安堵している。

 ランベールさんの両親が熱心に信仰するカトリック教会では、自殺を含め基本的に人間が人の命の終わらせる権利を否定し、「汝殺すことなかれ」の原則に立っている。

(M)