ウクライナ、汚職とロシアに毅然と対処を
ウクライナで行われた大統領選挙決選投票の結果、喜劇俳優のゼレンスキー氏が現職のポロシェンコ大統領を圧倒的な大差で破って当選した。ウクライナ東部は、ロシアがウクライナ南部クリミア半島を武力併合して以来、政府軍と親露派武装勢力との紛争を抱えているが、まず政治が汚職から抜け出し、国民生活を立て直すことを有権者は望んでいる。
大統領選で現職敗れる
ポロシェンコ氏は反ロシア政策を強く打ち出し、ウクライナ軍の再建、ウクライナ語の徹底、ロシア正教会の管轄を離れたウクライナ正教会での信教など愛国路線を訴えた。しかし、新興財閥が絡む汚職体質や低迷する経済は改善されなかった。
政治腐敗撲滅を掲げた政治の素人が得票率73%で大勝したのは、積年の政治不信が招いた結果だ。2004年の「オレンジ革命」は親露派が当選した大統領選結果への不信から抗議デモが起きて再投票で覆したが、その後の政争や腐敗、ロシアの介入を招いた対立に有権者は期待を裏切られてきた。
ポロシェンコ氏や、今回は決選に残れなかったティモシェンコ元首相とも過去十数年に及び政治舞台に立ちながら、さまざまな汚職疑惑にさらされて腐敗イメージを払拭(ふっしょく)できなかった。ただ、旧ソ連圏の新興独立国であるウクライナで、開かれた大統領選が行われ、民主主義の政権交代システムを示し得たことは評価できよう。
また、親露派の政権復帰の可能性はほぼなくなった。ロシア系住民が多い東部でロシアが実効支配を進め、ウクライナの選挙で親露派有権者が少なくなったからだ。大統領選候補のほぼ全てが欧米派で欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)加盟を指向し、唯一の親露派候補のボイコ元副首相は、1回目投票で11%余りの得票率にとどまる4位で敗退した。
一方、クリミア問題で対露経済制裁を行っている欧米諸国は、素人候補の圧勝に一抹の懸念も持って注視している。ゼレンスキー氏が、紛争当事国としてロシアとの難題に取り組みながら、欧州の一員を目指す舵(かじ)取りをどう行うかは未知数だ。
ロシア人住民が多いドネツク州やルガンスク州で武装蜂起した親露派勢力は、それぞれの州を独立した「共和国」と主張して内戦となった。ウクライナとドイツ、フランス、ロシアと両州の親露派勢力が15年に停戦で合意した後も、攻撃は繰り返されている。
昨年ロシアは、クリミア半島近海で「領海侵犯」を主張してウクライナ海軍の艦船3隻を拿捕(だほ)した。ウクライナで軍事的緊張を高めるロシアに対し、ゼレンスキー氏はプーチン大統領と対話を進めるとしている。拘束された乗組員の解放は喫緊の課題だが、交渉次第ではクリミア半島とその領海の主権をロシアのものと認めかねない可能性もある。
力による領土拡張許すな
もとより、欧米など国際社会がウクライナを支持するのも、国際法違反の力による領土拡張を許さないためだ。新政権発足後も、結束して毅然(きぜん)とした態度を貫いてほしい。