高齢ドライバー、積極的に免許返納に応じたい


 東京・東池袋で、車が歩行者や自転車を次々とはね、母子2人が死亡、10人が負傷した。車を運転していたのは87歳の男性で、またしても高齢者の運転による悲劇が起きた。

時速100㌔近くで暴走

 車は現場手前で車輪を縁石に接触させた後、赤信号を無視して横断歩道に突っ込み、自転車の男性をはねた。次の横断歩道で母子が乗った自転車をはね、左から曲がってきたごみ収集車に衝突。回転した車は三つ目の横断歩道で通行人4人を次々となぎ倒し、信号待ちをしていたトラックにぶつかって停車したという。

 運転していた男性は縁石への接触でパニックに陥り、車のスピードは時速100㌔近くに達していたとされる。停車するまで約150㍍暴走し、ブレーキを踏んだ形跡はなかった。

 2017年の改正道路交通法施行で、75歳以上は免許更新時などに行われる認知機能検査で「記憶力・判断力が低くなっている」と判定されると医師の診断が義務付けられた。認知症と診断されると免許取り消しの対象になる。

 男性は17年に免許を更新した際、認知機能検査で「問題なし」と判定され、免許証も優良運転者対象のゴールドだった。だが「問題なし」とされた高齢者が、事故を起こすケースは後を絶たない。

 神奈川県茅ケ崎市で昨年5月、赤信号の交差点に車で突っ込んで4人が死傷した事故で、運転していた90歳女性も検査で異常は見つからなかった。検査は日付や曜日を答えるなどの簡単な内容で、これだけで高齢者の運転による事故を防ぐことは難しいのではないか。高齢者は注意力や身体能力も低下している。運転技術のチェックなど検査を強化する必要がある。

 警察庁によると、昨年1年間に交通死亡事故を起こした75歳以上の高齢者は、前年より42人多い460人だった。今回の事故で妻と娘を亡くした男性は「少しでも不安のある人は運転しないという選択肢を考えてほしい」と、多発する高齢運転者事故の根絶を訴えた。全ての高齢ドライバーには、この言葉を重く受け止めてもらいたい。

 75歳以上の免許保有者は昨年末時点で約563万人で、全免許保有者の約6・8%を占める。高齢ドライバーによる事故を防ぐため、全国の警察本部は高齢者に免許の自主返納を促している。昨年は75歳以上で29万人が返納した。

 ただ、買い物や通院で車が必要な高齢者も多い。返納者にはタクシーやバスの割引などを行う自治体もあるが、返納が十分に進んでいるとは言えない。

 しかし死亡事故が起きれば、被害者の遺族は悲しみのどん底に突き落とされ、加害者も残り少ない人生を自責の念にさいなまれながら過ごすことになる。人命に関わることであり、高齢ドライバーは積極的に返納に応じてほしい。

どのように自覚を促すか

 民間の調査によれば、80歳以上のドライバーの72%が「運転に自信がある」と答えている。

 加齢による運転能力低下に対する自覚をどのように促すかも大きな課題だ。