パリ爆弾テロ計画、イラン政府の関与判明

 フランス内務省は今月初め、パリ近郊で今年6月に開催されたイラン反体制派組織の集会を標的にした爆弾テロ未遂事件について、計画にイラン情報省の関与を示す証拠を突き止めたことを明らかにした。イラン政府は否定しているが、フランス国内でのテロ計画にイラン政府が関与していたことは重く受け止められている。
(パリ・安倍雅信)

6月の反体制派集会を狙う
核合意維持問われる仏政府

 フランス政府はテロ計画への関与を受け、直ちに工作員で容疑が掛かる2人と、イラン情報省の複数の職員の資産を凍結すると発表した。近年、テロに悩まされてきたフランスは、この事件によりイランとの関係悪化も指摘されている。

16日、就任したカスタネール新内相(左)=仏内務省HPより

16日、就任したカスタネール新内相(左)
=仏内務省HPより

 米国がイラン核合意から離脱した後、欧州連合(EU)、特にフランス、ドイツが核合意維持とイランとの経済関係の継続を表明した。しかし、フランスとの関係悪化につながるテロ未遂事件が発覚した形だ。イラン側はフランスの主張を全面否定する一方で、対話を呼び掛けており、関係悪化を回避したい思惑が見え隠れする。

 爆弾テロの標的とされたのは、イラン政府からテロ組織と見なされているイラン反体制派組織、ムジャヒディン・ハルク(イスラム人民戦士機構、MEK)とパリに本部を置くMEKの政治部門、イラン国民抵抗評議会(NCRI)が主催した今年6月30日の集会で、約2万5000人の参加者を集めた。米国からはトランプ大統領の顧問弁護士、ジュリアーニ元ニューヨーク市長ら有力者も参加した。

 イランの反体制派組織主催の集会に米国の要人が参加するのは珍しいが、イランとの対決姿勢を強めるトランプ政権は、反体制派のMEKやNCRIとのパイプづくりを行い、イランに圧力を加えようとしたとみられている。

 パリに拠点を置くMEKとNCRIは、もともとはシーア派の教義とマルクス主義を融合させたイランの反米武装組織で、1979年のイラン革命で重要な役割を果たした。しかし、革命後のホメイニ体制に反発し、テロやゲリラ活動を展開し、イラン・イラク戦争では、サダム・フセイン政権下のイラク側に付いて参戦した。

 2003年以降は武力闘争を行っていないことから、09年にはEUのテロ組織リストから除外され、12年には米国でもテロ組織指定を解除されたが、イランでは反体制派テロ組織に指定されている。

 パリのNCRI本部は、欧州でのロビー活動の拠点で、MEK指導者の隠れ家としても知られる。フランスはフセイン政権のイラクと緊密な関係にあったことや、イラン革命で失脚したパフラヴィー国王の長男の身柄を引き受け庇護(ひご)した経緯もあり、MEKもパリ西郊外に今も拠点を置いている。

 イラン反体制派集会は、米大統領側近まで迎えて開催されることもあり、フランス政府は厳戒体制を敷いた。イスラエル諜報機関モサドが入手したテロ計画の情報から、フランスはドイツ、ベルギーと協力してテロ攻撃を直前に阻止することができた。

 フランスの内相と外相、経済・財務相は今月2日、共同で「わが国の領土に対するこの極めて深刻な行為には対応せざるを得ない」とする声明を出し、イラン情報省が爆弾攻撃計画を裏で主導したと結論付けるとともに、イラン情報当局者の資産凍結を実施することを明らかにした。

 これに対し、イラン外務省は「ありもしない結論」とした上で、陰謀や疑惑があるというなら「膝を突き合わせて話し合えるはずだ」と述べ、フランス側に対話を求めている。

 フランスは、イラン核合意維持の立場だが、シリアやイエメンの内戦などをめぐってはイランが紛争をこじらせ、中東を分断しようとしていると非難している。国内からも中東政策の見直しを迫る意見が出ており、政府は難しい立場に立たされている。