ウズベキスタンの政治・経済改革
ウズベキスタンが、経済の自由化や政治の民主化など改革に向け大鉈(なた)を振るい始めている。同国では前カリモフ大統領の急逝を受け、シャフカト・ミルジヨエフ元首相が2016年12月の選挙を経て大統領に就任して、間もなく2年を迎える。ミルジヨエフ大統領は新政策を次々に打ち出し、旧ソ連崩壊後も権威主義的体制が続いた中で言論・人権弾圧に関わった保安当局の解体に手を着け、中央アジア5カ国首脳会談を開催するなど、改革は内政から外交、そして経済のさまざまな部門に及んでいる。
(池永達夫)
自由化で域内市場リード
相互交流進む中央アジア
駐日ウズベキスタン大使館と日本ウズベキスタン議員連盟は先月中旬、衆議院第一議員会館の国際会議室で「ウズベキスタンの改革と日本の協力」をテーマにシンポジウムを開催し、大学教授ら専門家や国会議員、ジャーナリストなど100人余が参加した。
シンポでは、ウズベキスタン発展戦略センターのA・ブルハノフ所長が「政府から独立した機関による裁判官任命により、司法の独立を担保できるようになった」ことや、「政府予算を国会が管理するようになり、さらに為替の自由化により進出企業が儲(もう)けた外貨の持ち出しが自由になったこと」など、具体例を挙げて政治・経済改革の成果を説明した。
これに対し、同国を訪問したことのある西村康稔内閣房長副長官は、「地政学的な重要性と同時に、市場には想像した以上に多くの野菜や果物であふれていて、外貨規制撤廃などビジネス環境も大きく変わってきている」と述べ、わが国との互恵関係強化への期待を表明した。
また、S・サファエフ上院第1副議長は「鉄道インフラなど輸送インフラを発展させたことで、この1年で近隣諸国との貿易は20%増えた」と強調し、「相互信頼のレベルが上がりつつある中央アジアそのものを魅力的な市場にしたい」と、地域全体のパイを大きくする意欲を示した。
とりわけサファエフ氏が強調したのが、中央アジア5カ国の横の連帯だ。ミルジヨエフ大統領は精力的に近隣諸国との関係強化に動き、タジキスタンとはビザ撤廃による相互交流強化で合意し、キルギスとの国境問題も解決に持ち込んだ。
旧ソ連邦時代にはモスクワは中央アジア各共和国との一対一の関係を重視し、共和国同士が結び付くことを嫌った経緯がある。民族的紐帯(ちゅうたい)や同じイスラム文化を媒介に中央アジアに強固な共同体が構築されることは、即、モスクワのリーダーとしての位置が危うくなることを懸念したためだ。
なお、サファエフ氏は、「この話はまだ早いかもしれないが」と前置きしながら、「地域統合には共通の価値観と原則、さらには共通の構想も必要になる」と指摘。「これがないと統合は紙の上だけになってしまうし、最終的には調整機関も必要になる」との認識を示した。
改革をバネにウズベキスタンの経済が発展するとともに、中央アジア5カ国の中で最大の人口を擁する同国が中央アジアの地域統合をリードしていけば、旧宗主国的関係にあるロシアや急速に影響力が増大しつつある中国を牽制(けんせい)する政治力が、この地域に誕生することにもつながってくる。
ロシアは自らが主導するユーラシア経済共同体(EAEC)やCIS集団安全保障条約機構(CSTO)を通じて政治的影響力を行使しようとしているし、中国は一帯一路構想で資源補給や欧州との中継役を期待して中央アジア諸国に触手を伸ばしつつある。
しかし、トルクメニスタンは対中債務の返済で資金繰りが悪化し、経済は危機的状況に陥っている。国家収入の約7割を占める天然ガスの輸出で中国依存を深める一方、新天然ガス田やインフラ整備などで同国への借金がかさみ、小麦粉や砂糖、食用油などの生活必需品が不足、物価上昇率は300%にも達しているとされる。
またタジキスタンは4月、発電事業への3億ドル融資の見返りに、金鉱山の開発権を中国に取られている。
こうしたことからロシアや中国に極端に傾斜しないユーラシア大陸の安全保障をにらんだ大局的見地からも、わが国は中央アジアの結束を強める経済支援や外交努力を強化する必要がある。