子供と親が抱える悩みに対処

フィンランド100年の児童支援 「ネウボラ」の現場 (下)

ファミリー・ネウボラ

 「ファミリー・ネウボラとは、ファミリー・カウンセリングセンターです」。フィンランド首都圏、エスポー市(人口約28万人)のファミリー・ネウボラ統括責任者イルッカ・パカリネン氏が説明した。

イルッカ・パカリネン氏

エスポー市のファミリー・ネウボラ統括責任者イルッカ・パカリネン氏

 ネウボラが妊娠・出産・子育て(就学前まで)を支援する公共医療機関なら、「ファミリー・ネウボラ」は問題を抱える12歳以下の子供と親たちを無料で支援する社会福祉機関だ。対象はカウンセリングを必要とする人で、電話で相談を受けるコーリングセンターのスタッフが判断する。特に子供の心理的社会的な発達に関して不安を抱える親や子供自身、親子・夫婦関係の葛藤などを抱える家族に専門家が対応している。

 「全スタッフの半数以上は、心理療法を行うサイコロジストで、残りはソーシャルワーカーですが、彼らは同時にファミリーセラピスト(家族療法士)の資格も持っています。サイコロジストの半数もファミリーセラピストの資格も持っています」(パカリネン氏)。

 エスポー市のファミリー・ネウボラはセンター3カ所、スタッフ40人を擁し、年に約1700人が助けを求めてくる。スタッフ1人が担当するクライアントは多い人で年50~100人と、結構忙しい。

 クライアントは、まず短期間のカウンセリングを受ける。カウンセリングは子供、母親、父親、夫婦、または家族全員など状況によって異なり、1回のセッションは約60分、家族全員の場合は90分だ。

800

家族が参加して行うカウンセリングの部屋

 パカリネン氏によれば、60%が1回から5回までの短期間のカウンセリングで終わる。それ以上必要な場合は15回まで受けることができる。スタッフはクライアントに家庭でも実践すべき課題などを与えて、進展具合を見ながらカウンセリングを行う。15回までに約97%が問題解決に必要な支援を得たと答えている。さらに長期の療法が必要な場合、「フィンランドでは大学病院に行くことになる」という流れだ。

 児童虐待防止の効果についてパカリネン氏に尋ねたところ、やはり「ネウボラは、すべての子供と親と出会える場なので、土台には成り得る」との答えが返ってきた。「助けを必要としているならば、ファミリー・ネウボラ、ソーシャルワーカーや児童養護・保護施設など、他の機関に連絡を入れることはできる」からだ。カウンセリングが必要な子供、親、家族の問題を解消することが虐待の予防とも言えるだろう。

 一方、新たな課題もある。同市の人口増加に伴い、相談件数は2016年度の同時期に比べて今年度は約25%増加。スタッフの数が限られ、その分だけ短期間で解決の方向に持っていけるかが迫られているのだ。

 欧州共通の移民問題も深刻だ。「フィンランド語が難しいですから、通訳を交えて時間も割かれます。文化背景が違うと、お互いに理解するのも時間がかかります」(同氏)。時代の波にもまれながら、家庭を支える制度は続いていく。

(ヘルシンキ・吉住哲男)