フランスでイスラム過激派のテロ多発、対策で情報集中管理目指す

 フランスは、この3年間、イスラム過激思想によるテロがヨーロッパで最も多く発生している。昨年発足したマクロン政権はテロ対策改正を行い、公約の一つである情報の集中管理体制に近づけるため、今月に入り32項目からなるテロ対策プランを明らかにした。実施までに時間を要する内容も含まれ、反対の声もある。
(パリ安倍雅信)

マクロン政権が32プラン 教育現場の研修・通報強化
大統領権限の行使に不満も

 昨年11月、2015年11月にパリ市内や郊外で起きた同時テロ以降に実施していた非常事態宣言を解除した。同時に非常事態宣言下で強化されていたテロ対策を恒久的なものにするためテロ対策改正法が施行された。

マクロン大統領

テロ対策組織一元化の公約を掲げたマクロン大統領(AFP時事)

 さらに今年2月末、政府はイスラム過激思想の拡散防止のための具体策を明らかにし、刑に服するテロ関連の囚人の数に相当する総計1500の個人の隔離スペースを全国に設ける方針を打ち出した。加えて過激思想が拡散しやすい教育現場やスポーツクラブを担当する教師やコーチの研修を強化し、訓練や監視、通報体制の強化も行っている。

 昨年秋の法改正で導入した措置については、2020年に継続の是非を検討する予定だが、今回のPACTと名付けられた32項目の新テロ対策プランには、それまでの期間を対象に対策の改善を目的とした一連の措置が盛り込まれている。

 特に13日に明らかになったテロ対策改善プランでは、刑を終えて釈放される元受刑者が再び過激化することを視野に入れた監視体制の強化と、情報活動の管理態勢の変更に重点が置かれる一方、政府は国防上の理由から、一部の措置については公表していない。18日の議会で、コロン仏内相が「国内治安とテロとの戦い強化」の法案説明を行った。

 フランスではテロ関連の罪で有罪判決を受け服役中の受刑者のうち、450人が来年末までに釈放される予定だ。その多くが再び過激化する可能性があるとの見解を、パリ検事局のテロ担当のフランソワ・モランス検事は示している。

 今回のプランでは、国内治安総局(DGSI)内に危険人物追跡ユニットを新設し、テロ関連で服役中の囚人のプロファイルを一括管理するとしている。実はこれまでテロ関連の情報収集や管理、捜査は、国家警察や憲兵隊、検事局、軍、DGSIなどが個別に行っていた。

 これまで何度も統合を試みながら、各部署間の利権争いから抵抗に遭い実現できなかった背景がある。2015年11月のパリ・バタクラン劇場などでの複数の場所での大規模な同時多発テロ事件で、担当部署が複数あったことが初動の遅れにつながったことが指摘されていた。

 同問題を解決するため、テロ対策組織を一元化する公約を掲げていたマクロン大統領は、昨年就任直後に大統領府にテロ対策の調整組織を置いた。今回のプランでテロ対策専門ユニットをDGSI内に設置し、政府内のさまざまな部局が担ってきた情報活動をDGSIが取りまとめる役割を担うことを明確にした。

 司法関係でも、テロ捜査の選任検事局を新設する方針で、テロ事件の捜査を一括して行っているパリ地検のモランス検事率いる特別部署を新たに独立した検事局を組織編成し直すとしている。これにより捜査体制を強化する方針だが、実現には法令改正も必要だ。

 さらに、新たなテロの脅威となり得る原子力、放射能、生物、化学、爆薬、ドローンによる攻撃が深刻な被害につながるとの認識から、関連施設への防御体制を強化する項目も加えられている。今後、このような危険な施設に対して具体的な強化策が実施されるとしている。

 ただ、テロ対策は広範に及ぶため、各部署間の権限問題など壁は厚く、プランそのものに反対意見も出ており、具体化するためにはいくつものハードルを越える必要がありそうだ。国会審議を経ない大統領権限行使で強引に政策を進めるマクロン政権への不満の声も聞かれる。