EU経済の好調あと2年続く?

独、伊など政治に不安要素
昨年、ポピュリズム台頭乗り切る

 欧州連合(EU)の経済は昨年、10年ぶりの成長率2・5%を記録した。ユーロ圏経済は、英国のEU離脱を控え、通商交渉が本格化する中、昨年吹き荒れたポピュリズムの台頭をしのいだ。今年も安定した伸びが期待される一方、移民や治安問題など不安要素も指摘されている。(パリ・安倍雅信)

メルケル氏(左)とメイ氏

昨年2月3日、マルタの首都バレッタで開かれた欧州連合(EU)首脳会合で撮影場所への移動中話し合うメルケル独首相(左)とメイ英首相(AFP=時事)

 EU執行機関・欧州委員会のモスコビシ委員(経済・財務・税制担当)は1日、2017年のユーロ圏の成長ペースが、2019年まで続くとの見方を示した。

 EU統計局ユーロスタットが30日に発表した2017年通年のGDPは前年比2・5%増で、07年以来10年ぶりの高い数字を示した。

 仏BNPパリバ主催の金融サービス会議に出席したモスコビシ委員は「この勢いは、少なくとも2018年と19年も続く。世界的にリスクは均衡している」と楽観的見通しを示した。欧州金融界では、投資は危機から完全に回復しているわけではないが、引き続きユーロ圏経済の稼働状態は良好との見方が有力だ。

 一方、欧州委員会が独自に発表した今年1月のユーロ圏景況感指数は、114・7となり、17年ぶりの高水準だった17年12月の115・1をやや下回った。クリスマス商戦後、小売セクターの景況感が6・0から5・0に、サービスが18・0から16・7に低下したことが影響したとみられている。

 しかし、製造業は8・8と最高を更新、消費者信頼感も1・3と12月の0・5から上昇している。ユーロ圏は今年、概(おおむ)ね堅調なスタートを切ったことになり、ユーロ圏経済は、来年にかけて引き続き、良好に推移するとの見方が関係者の間に広がっている。

 ただ、欧州中央銀行(ECB)のクーレ専務理事は2日、欧州はさらなる景気低迷が発生し、危機が起きればECBの限界が試されるとの見方を示している。同理事は、前回の危機で露わになった制度上の欠陥の多くが解決されていないことを指摘した。

 実際、不安要素がないわけではない。2月上旬を目途(めど)にドイツで進められている連立協議が破綻した場合の選挙のやり直しは、欧州経済の牽引(けんいん)役であるドイツにさらなる政治空白をもたらす恐れがある。メルケル首相率いる保守系のキリスト教民主・社会同盟と中道左派・社会民主党の二大政党は1月26日に大連立継続に向けた正式協議を開始したばかり。

 社民党員の間には大連立に否定的な見方が根強く、1月21日の社民党大会では、連立協議入りの賛成票が全体の56%にとどまった。たとえ大連立政権が樹立されてもメルケル首相の政治運営は困難を極めることが予想される。

 一方、昨年12月末にマッタレッラ大統領が議会の解散を宣言したイタリアでは3月4日に総選挙が実施される。世論調査の事前予想では、ポピュリズム政党の「五つ星運動」が第1党になる可能性が高い。ただし、第1党になっても過半数には至らず、連立相手を探すことになる。

 不況が続いたユーロ圏では昨年、オランダ、フランス、ドイツなどで選挙が行われ、反EU、脱ユーロを掲げる極右政党の台頭が欧州全体で見られたものの、結果的には大きな脅威とはならずに乗り切った形だ。ユーロ圏の景気回復が政治不安を打ち消す形になっており、イタリアのポピュリズム政党も極端な政策では票を得にくくなっている。

 イタリアは、地中海の対岸のリビアから、この数年、大量の不法移民が危険な航行の末、辿(たど)り着いており、移民政策には敏感になっている。さらにイスラム過激派のテロリストが潜伏しており、治安に対する不安も消えていない。

 EUでは1月13日、ユーロ圏財務相会合の新議長にポルトガルのマリオ・センテーノ財務相(50)が正式に就任した。ギリシャの財政危機以降、緊縮財政の圧力にさらされたユーロ圏のEU加盟国の中にあって、2015年にポルトガルの財務相に就任したセンテーノ氏は、ポルトガルの財政健全化を成功させた実績を持つ。

 ユーロ圏財務相会合は現在、国家予算の草案や救済計画までチェックする役割を担っており、欧州経済に強い影響力を持つ。ドイツが主導した厳しい財政緊縮政策が今後、ユーロ圏でどう変化するのか注目を集めている。

 欧州は今、景況感の改善が見られる一方で、フランスなどでは企業の収益増に雇用創出が追い付いていない。また、移民問題では、2月に入り、英国を目指す不法移民が集まるカレーで移民同士の衝突が起き、死者も出している。また、過激派組織「イスラム国」(IS)が新たなテロ攻撃を示唆しており、不安要素はぬぐえない状態でもある。