急速に改革進むウズベキスタン

中央アジア・コーカサス研究所所長、中国研究所会長 田中 哲二

 中央アジア最大の人口(約3000万人)を擁するウズベキスタンのミルジヨエフ大統領が2016年12月に就任して1年余が経過した。同大統領が進める急速な改革について、昨年11月、同国を訪ねた中央アジア・コーカサス研究所所長の田中哲二氏がレポートする。

ミルジヨエフ大統領が牽引
通貨政策など相次ぎ自由化
目覚ましい近隣国との関係改善

 昨年11月サマルカンドで開かれた「中央アジアの安全保障に関する国際会議」に招聘(しょうへい)され、就任後ほぼ1年のミルジヨエフ新大統領の基調演説を聞いた。同報告の中で予想を上回る内容と感じられたのは次の3点である。

田中 哲二

 ①中央アジア諸国は、共通の歴史、宗教、文化、伝統を基礎として、共用輸送インフラの建設協力等を通し、将来の繁栄のために結束を強化すべきである②ウズベキスタンは、域内不協和音の解消と信頼構築の推進役となり得る③近い将来、中露を含まない中央アジア首脳会議を開催する。

 こうした発言を裏付けるこの1年間の経済・外交政策を見ると、大きく分けて、第一に外交面での周辺近隣国友好外交への転換、第二に前政権で不評であった施策のポピュリズム的変更、に集約できる。

 まず外交面では、前政権ではやや孤立主義的傾向のあった近隣諸国との関係改善に目覚ましいものがある。順を追って記すと以下のようになる。

 大統領就任直後にトルクメニスタンとカザフスタンを訪問、17年4月、四半世紀ぶりにタジク―ウズベク間に直行航空便再開、9月に17年ぶりの大統領のキルギス訪問、カシュガル―オシュ―アンディジャン鉄道建設で合意。同じくカザフスタンのナザルバエフ大統領招聘、11月の韓国訪問、12月アフガニスタンのガニ大統領を招聘し、同時にカブール―タシケント間に直行航空便開設。同12月に初めて「チュルク語国家国会総会(第7回会議)」へ参加。

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アルマリク鉱石コンビナートを視察するミルジヨエフ大統領(中央)

 次に前政権で不評であった諸施策等の改善である。まず、人事。現地で得た大統領令に関する17年4月~11月半ばの統計を見ると、「人事」に関する大統領令105件、「制度改革等」に対する大統領令49件、同大統領決定120件ということでも分かる通り、実にハイスピードで人事の刷新と政策変更が行われている。

 その中で、カリモフ政権下での官僚幹部(次官級以上)、国営機関のトップは少数の例外を除き軒並み入れ替えられている。一時新大統領のライバルと目され、これまで経済外交を一手に任されてきたアジモフ前第一副首相は、中小規模の貿易保険会社の社長ポストに実質左遷された。

 こういった人事を進める一方、大統領は17年を「民衆との対話と人間の利益の年」に設定し、前政権下で評判が芳しくなかった制度・政策の改正や廃止を急ピッチで進めた。その内容は次のようなものである。

ミルジヨエフ氏

国会で演説するミルジヨエフ大統領

 ①9月、貿易業界や外国人投資家に評判の悪かった「外国為替取引」に関し「通貨政策の自由化」の大統領令によりハードカレンシーの交換の完全自由化、複数為替レートを1ドル=4210スムから8100スムに一本化して切り下げた(これに関しては今後の輸入物価の上昇が懸念される一方、過去の複数為替レート下で発生した為替差益処分への前政権幹部の関与疑惑が浮上している)②同時に、輸出業者の外貨収入の強制売却制度は所有形態にかかわらず廃止する③金属製品、植物繊維、医薬品など42品目の輸入関税を無税化④「自由観光ゾーン」の設置⑤朝夕ラッシュ時の「大統領専用自動車道路」制を廃止し大統領車も一般道路を通行する⑥国民との直接対話システム(「国民相談センター」や「大統領付属相談センター」)の設置⑦財務省の中に対応の遅れている「アラル海沿岸地域発展基金」の設置⑧途絶えていた科学アカデミーの選挙の実施、権威研究者への学術称号の付与⑨高等教育の充実のための「高等教育システム総合発展プログラム」の策定――などである。

 これらの諸政策の効果もあって、17年の経済社会面の主な実績は次の通りである。

 ①経済は5・5%の安定的成長、輸出額は15%増、貿易収支は8億5400万ドルの黒字、外貨準備高は11億ドルの増加②12の自由経済特区と45の産業特区(さらに50の産業特区が準備中)の成立③雇用面では、新生産拠点の建設、中小ビジネス、民間ビジネス、サービス産業の発展等で33万6000人分の新雇用創出④タシケント熱電併給発電所、アルマリク鉱石コンビナート、カンディムガス加工施設等161件の大規模生産拠点の稼働開始⑤国民のニーズの高い住居建設については、担保優遇融資制度を充実させ、増加居住面積は350万平方メートル以上⑥義務教育施設については、12の学校の新設、320件が改修、1152件で大々的な修繕⑦国内高等教育機関は81校、国内大学の地方分校は15、外国の大学の分校は7校⑧文化・学術振興機関としてウズベク創作振興財団「イルホム」の創設、ウズベク・イスラム文明センター、イスラムアカデミー等の創設。

 さて、今年は大統領の初訪日が想定されているが、新政策については昨年12月の大統領による初の議会演説で、18年を「活発な企業活動とイノベーション構想とテクノロジーを支援する年」に設定、経済政策においては次のような方策を取ることとしている。すなわち、①積極的な企業活動家(イノベーション、最先端のアプローチ、高度な技術を伴うもの)の全面的支援②経済分野だけでなく、社会全体の活動に必要かつ重要なプロジェクトを推進する「イノベーション開発省」を創設し具体的な課題を設定する③学術研究並びにイノベーション事業推進に必要な資金を提供し、これに参加する才能ある若者を全面的に支援する。

 今後の発展の鍵として、イノベーションに力点を置く同大統領としては、最先端技術を保有する日本に期待するところが大きいと思われる。