マクロン労働改革、仏労組が激しく抵抗

 マクロン仏大統領が改革の目玉の一つと位置付ける労働法改正が、反対派のデモの頻発で強い抵抗に遭っている。就任以降、支持率が急降下するマクロン大統領は国民に不人気の緊縮財政や労働法改正、さらには権威主義的な意思決定で支持率は下げ止まらない。だが、20年以上、景気停滞、高失業率を経験した仏国民の多くは、改革にやみくもに反対する労働組合とは距離を置き始めている。
(パリ・安倍雅信)

背景に20年以上の景気停滞、高失業率
「反対一辺倒」に距離を置く国民も

 政府が進める労働法改正への抗議デモは、今月12日以降、断続的に続いている。21日にはパリ、レンヌなど主要都市で有力労組、フランス労働総同盟(CGT)が中心となって抗議デモが行われたが、22万人を動員した12日のデモほど参加者は多くなかった。9月に入っての抗議デモは、どこか過去にはない現象がみられる。21日の抗議デモはCGTが率いたデモということもあり、デモ参加者は先鋭化していた。

マクロン氏

不人気な緊縮政策・労働改革などで支持率を下げているマクロン仏大統領(AFP=時事)

 一方、CGTのような労組に共感しない人々は、政治色の強い抗議デモには距離を置き始めている。

 フランスの労働市場は長年、過度の被雇用者寄りの労働法により硬直化が指摘され、経済活動の妨げになっているとの議論があった。そのため特に右派政党が政権を握った際に、労働改革を試みたが、労組と彼らに共感する市民の強い抵抗に遭い、改革は成功した試しがなかった。そのため労働改革は政府にとって鬼門とされている。

 マクロン政権は、解雇や労働条件の規制緩和を柱とする労働法改正案を22日の閣議に諮り、順次施行する構えだ。それも政権関係者によれば、労組の強い抵抗に遭うことは折り込み済みだという。改正では労使交渉で全国規模の労組ではなく、企業内で人員整理などについて従業員に直接提示することが可能になる。

 不当解雇と認定された場合の企業の罰金も就業期間が30年で給与20カ月分を上限とすることで、企業側は解雇によるリスクの上限を把握できるようになる。グローバル化で国際競争に晒(さら)される企業にとって、避けられない人員整理の企業リスクを最小化するのが目的だ。

 労働市場の硬直化は、10%前後という高失業率の改善を困難にし、外資系企業もフランスの労働法が足かせとなり、投資を鈍らせてきた。専門家が再三指摘してきた労働規制の緩和は、既得権益を守りたい労組の強い抵抗で成功しなかった。

 パリ東部郊外の市役所で働くマリアレーヌさん(55)は長年、社会党支持者だったが、「このままの状態でフランスが経済的苦境を脱することができるとは誰も思っていない」と語り、今春の大統領選挙ではマクロン氏に投票したことを明かした。

 失業問題で結果を出すことは、マクロン政権にとっても至上命題とも言える。今は緊縮路線や企業寄りの労働法改正、強引な政治手法により、マクロン大統領の支持率が下がっているが、今年中に失業率を下げられなければ、政府への風当たりはさらに強くなるのは必至だ。

 欧州連合(EU)の牽引(けんいん)役であるドイツの失業率が3%台なのに対して、同じ牽引役のフランスは9%を切ることできず、7%台のEU平均よりも高い。英国のEU離脱で、金融機関がEUの統括機能をロンドンからEU域内に移動させる中、フランスは積極的誘致に乗り出しているが、一部少数のエリート層にしか雇用を生まないとの批判もある。

 一方、ユーロ圏から何度も警告を受けてきた財政赤字を国内総生産(GDP)比3%未満とする基準を満たすため、マクロン政権は緊縮路線を打ち出している。マクロン氏は5年以内の年600億ユーロ(約8兆円)の歳出を削る方針を出したが、早くも削減額の縮小を余儀なくされている。

 特に中央、地方両面で緊縮を掲げ、地方交付金の削減に不満を持つ公務員や地方議員などの反発が根強いことから、削減額を変更する事態になっている。とはいえ、国民の大多数がマクロン政権の改革路線に反対しているわけではない。

 なぜなら、オランド前左派政権も右派のサルコジ政権、シラク政権でも失業率を下げることも経済停滞を解決することもできなかったからだ。

 特にビジネス界は、法人税や社会保障税の引き下げ、雇用規制の緩和を長年求めており、マクロン政権への期待感は高い。調査会社オドクサが行った最新の世論調査でマクロン大統領の支持率が就任当初の58%から44%に落ちているとはいえ、マクロン政権の政策への反対票と読むのは早計といえる。