マクロン仏大統領、支持率36%に

鬼門の労働改革、秋が正念場

 就任100日を過ぎたフランスのエマニュエル・マクロン大統領の支持率が、不人気だったオランド前大統領以上の速度で落ち込んでいる。強圧的な政治手法と失業率の増加は、秋から始動する労働改革に暗い影を落としている。マクロン氏にとって早くも正念場が訪れている。
(パリ・安倍雅信)

根を張る被雇用者の過剰保護

 先週7月の失業率の大幅な増加が発表され、支持率が急落しているマクロン大統領に追い打ちをかけた形だ。7月の失業率は前月比1ポイント増加し、10・5%を超え、若者の失業率は2・8ポイント増、中高年や長期失業者の失業率も増加した。今年に入り景気回復、経済指標が良好な中、失業率の改善の兆候も見られたが、意外な結果だった。期限付き雇用や研修等が期限切れになったのが主な理由とも指摘されている。

マクロン氏

フランスのマクロン大統領=15日、パリ(EPA=時事)

 フランス人は失業問題には、他の政治課題以上に敏感だ。オランド前大統領の不人気も失業問題の改善に失敗したことが最大の理由とされ、マクロン新政権への期待は逆に膨らんでいた。

 秋から始まる新年度、政府は改革の本丸と位置付ける労働改革に取り組むことになる。就任100日が経(た)つマクロン大統領は、就任当初、ベルサイユ宮殿に上下両院議員を集め、自らの政権を「改革政権」と位置付け、改革断行への決意を表明した。

 硬直化した労働市場の改革は、22年前に発足した保守のシラク大統領の政権以来、取り組んでいる課題だが、成功した試しはない。シラク政権以前の左派のミッテラン政権下で確立した被雇用者を過剰に保護する社会主義的労働法がもたらした労働環境の改革には、労働組合を中心に常に強い抵抗があった。

 39歳の若きマクロン氏を支持した有権者は抜本的な労働改革に合意し、イデオロギーが相反する勢力を一つに結集できる中道の指導者として、期待を一身に集めているはずだった。

 英国の欧州連合(EU)離脱で困難に直面するEUへの対処も適切に行ってくれるという期待感も大きかったが、支持率は急落し、失業率の増加で有権者は失望している。無論、絶大な支持でなかったことは大統領選の決選投票で棄権率が有権者の3分の1に達したことからも明らかだった。

 現在、36%台というマクロン氏の支持率は、歴代大統領の就任100日の支持率(サルコジ氏、07年66%、オランド氏、12年56%)と比較しても急落ぶりは深刻。保守系全国紙ル・フィガロは、マクロン氏への国民の「気持ちが冷めた」と指摘した。

 急落の主因としては、財政健全化のための緊縮政策で大幅な歳出削減を断行しようとしていることが指摘されている。その中には貧困層が受け取る住宅補助手当削減も含まれる。さらには週労働35時間制を実質骨抜きにする見直しや会社側が社員の解雇を容易にするなど労働法の改正という国民の反発を買う改革が次々に打ち出されている影響も指摘されている。

 しかし、最初の躓(つまず)きは国防予算削減をめぐって意見が対立した軍のトップ、ドビリエ統合参謀長に対して「決めるのは私だ。私の決めたことに意見する必要はない」とマクロン氏が発言したことで、ドビリエ氏が辞任したことだったと言われている。マクロン氏は選挙期間中から、スタッフの意見は聞くが決める時は一人で決めるスタイルを貫いてきた。

 抵抗が予想される労働法改正をめぐって、議会を通さずに政府が改正できる法案を強引に成立させたことも反発を招いた。あまりの不人気に、マクロン大統領は当初、開かないと表明していた定例記者会見を開くことを決め、国民との対話重視の姿勢を見せている。

 大統領選以外の国政選挙の経験がないマクロン氏は、ロスチャイルド系投資銀行の副社長という経歴を持ち、官吏養成のパリ政治学院、国立行政学院(ENA)を優秀な成績で卒業し、会計監察官になるという典型的なスーパーエリート街道を歩んできた人物だ。

 最近では、訪問先のポーランドで国外への派遣労働者の最低賃金の見直しを迫り、ポーランドのシドゥウォ首相から「傲慢で一方的」と批判された。フランスのスーパーエリートたちの過剰な自信に満ちた立ち居振る舞いは、ヨーロッパでは有名だ。

 8月のフランスのメディアは「就任以来、メーキャップ代に300万円費やした」などマクロン批判で覆われている。マクロン氏は反対意見に耳を貸さない高圧的なローマ神話の主神、ジュピターに因(ちな)み、「ジュピタリアン大統領」とマスコミに皮肉られている。

 6月の国民議会選挙で、マクロン氏の支持政党・共和国前進が圧倒的議席を占有したことで、困難が予想される改革は乗り切れるかもしれないとの指摘もある。しかし、フランスでは鬼門の労働改革では、強力な労組の抗議デモやストライキの抵抗が待ち構えている。マクロン政権は早くも正念場を迎えようとしている。