独ミュンヘン銃乱射事件、犯人は過去の大量殺人に関心
ドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで7月22日午後5時50分ごろ、135店舗が入ったミュンヘン最大のオリンピア・ショッピングセンター(OEZ)周辺で、9人が射殺され、27人が負傷するという銃乱射事件が発生した。犯人はミュンヘンに住む18歳のイラン系ドイツ人。犯行直後、自殺したのが見つかった。犯人とイスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)とのつながりはなく、アドルフ・ヒトラーを崇拝する民族主義的な傾向が強かったという。ドイツ国民に大きな衝撃を与えたミュンヘン銃乱射事件の犯人像をまとめた。
(ウィーン・小川 敏)
実行犯の男 ヒトラーを崇拝か
ISとのつながりはなし
OEZ周辺で発生した銃乱射事件には約2300人の警察官、それにドイツが誇る対テロ特殊部隊(GSG9)、それに隣国オーストリアから欧州一の特殊部隊といわれるコブラ部隊50人が動員された。犯行現場上空にはヘリコプターが旋回し、現場を空から監視した。ドイツ犯罪史上でもまれにみる大規模な捜査網だった。
事件発生当初,犯人はイスラム過激派テロリストで3カ所から銃弾の音が聞こえたこと、犯人は「神は偉大なり」と叫んでいたといった目撃者の証言があったため、イスラム過激派テロリストの襲撃事件と考えられていた。犯人は短銃ではなく、長銃(Langwaffen)を所持し、3人という複数説が流れていた。市内でも銃撃戦が始まったという情報まで流れた。
警察当局は市民にはスマートフォンの警報システムを通じて、自宅から出ないように呼び掛け、ミュンヘン市中心街につながる地下鉄の運行を停止させる一方、タクシー業者に対しては警戒解除されるまで客をとらないように要請するなど、警戒態勢を敷いた。
ミュンヘンの銃乱射事件は捜査初期からさまざまなソーシャル・メディアに流れる情報に踊らされた。ドイツ民間放送は目撃者が撮った2本のビデオを流していた。1本は犯人が犯行現場のマクドナルド店前で銃を乱射し、市民が逃げているシーンが生々しく映されていた。別のビデオでは、犯人が周辺に住んでいる男性と話をしているシーンだ。犯人はそこで自身が精神的病で治療を受けていたことを吐露している。両ビデオとも犯人の動向を伝える貴重なビデオだが、事件解決前にメディアに公表されたことで捜査側にも混乱が生じたことは事実だろう。
しかし、実際は、①犯人はミュンヘンに住む18歳のイラン系のドイツ人②犯人は犯行現場から少し離れた場所で自殺していた③犯人は拳銃(グロック17)を所持④犯行動機は明らかではないが、ISとのつながりは見つかっていない―というものだった。
18歳の青年は社会恐怖症に悩み、鬱(うつ)で病院の治療を受けていたことがあったことが確認されている。同時に、過去の大量殺人事件に強い関心を注ぎ、バーデン・ビュルテンベルク州ビネンデンで発生した銃乱射事件(2009年3月11日)の犯行現場を訪れ、写真を撮ったり、ノルウェーのアンネシュ・ブレイビク受刑者(37)がオスロの政府庁舎前の爆弾テロと郊外のウトヤ島の銃乱射事件(11年7月22日)で計77人を殺害した事件に関心を寄せ、ブレイビク受刑者と同じように犯行前にマニフェストをまとめていた。ちなみに、銃乱射事件はブレイビク事件5年目に当たる22日に行われた。偶然ではなく,犯人が恣意(しい)的に22日を選んだことが考えられる。
ミュンヘン警察関係者が明らかにしたところによると、ミュンヘンの犯人は他人のフェイスブックを利用し、マクドナルドに招待するという趣旨のメールを送信し、若者たちを呼び集めていたという。ブレイビク受刑者がウトヤ島で開催されたノルウェー労働党青年部の集会に参加した若者たちを次々と射殺していったように、ミュンヘンの犯人はマクドナルドに来た若者たちを射殺する計画だった可能性が考えられる。実際、犯人のリュックサックには300発以上の弾薬があったという。
それだけではない。犯人は4月20日生まれだが、アドルフ・ヒトラーと同じ誕生日であることを自慢していたという。ドイツのメディアの一部は、「犯人はイラン人、ドイツ人であることを誇るアーリア人優越主義者であり、トルコ人、アラブ人を軽蔑していた」と報じている。実際、テレビで放映されたビデオでは、犯人は自分がトルコ人と間違われたことに激しく抗議しているシーンが映っていた。