無差別テロの脅威続くフランス、聖戦思想拡大抑えきれぬ政府

 革命記念日を祝うフランス南部ニースで起きた大型トラックによる大量殺戮(さつりく)テロは、フランスが依然、テロの脅威にさらされていることを思い知らされる事件だった。イラクやシリアの紛争地域に外国人として最も多くの聖戦主義過激派を送り込むフランスでは、国内での聖戦思想拡大を抑え切れずにいる。(安倍雅信)

国内で監視対象者5000人

宗教的軋轢など抜本的対策必要

 事件は、フランス南部ニースの市中心部のプロムナード・デ・ザングレの遊歩道付近で、革命記念日の14日午後10時40分頃に発生した。花火大会の終了時刻、多くの群衆であふれる現場に大型トラックが突っ込み、暴走し、少なくとも84人の命を奪った。

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16日、テロが起こった仏南部ニースで、花やろうそくを手向け、犠牲者を哀悼する人々(AFP=時事)

 緊急会見したオランド大統領は「テロリストの犯行の可能性は否定できない」と述べ、仏検察はテロ事件として捜査を始めた。また、当日朝、恒例の大統領インタビューで、非常事態宣言を26日に終了し、延長しない考えを表明していたが、テロ発生で3カ月の延長を決めた。

 今も50人以上が重傷を負って、病院で治療を受けており、死者は増える可能性があるとされる。当時、多くの外国人を含む数千人が集まっていた現場では、逃げまどう人々が次々とトラックにひかれ、命を落とした。その恐怖は世界中に配信された。

 フランスでは、テロを最高レベルで警戒していたサッカーの欧州選手権2016(UEFA EURO2016)が先週末に無事に終わったばかりで安堵(あんど)していた時期だった。

 検察当局は、トラックの中から押収した運転免許証にあったチュニジア出身で10年前にニースに引っ越してきたフランスとの二重国籍を持つ、モハメド・ラフエジブフレル(31)という名の男のアパートの捜索を行うとともに、犯人の背後関係の捜索を行っている。同容疑者は5件の窃盗・暴行容疑があり、3月には2件の容疑で起訴されていた。

 同時に、フランスのテロ対策当局は、同容疑者が過去に聖戦過激思想に傾倒し、当局の監視対象になっていたことはないとしている。一方でラフエジブフレル容疑者が、今月11日に19㌧トラックをレンタルし、どこに駐車させていたかなどの情報が市内に設置された監視カメラから確認されている。

 さらに捜査当局は、過激派組織「イスラム国」(IS)のスポークスマンで今年3月にベルギー・ブリュッセルで発生した爆弾テロを陰で指揮したとされるアブムハマド・アドナニ氏が、2年前に、世界の聖戦主義過激派に向かって、車によるテロを示唆していたことにも注目している。

 フランスでは昨年1月にパリにある風刺週刊紙シャルリエブド本社襲撃事件や女性警官殺害事件、ユダヤ食品店立てこもり事件が発生し、11月の仏国立競技場やパリ市内のカフェ、バタクラン劇場で起きた同時多発テロでは130人の犠牲者を出している。

 今回の事件が、イスラム過激派によるテロとなれば、昨年来、3度目の大規模テロが発生したことになる。その間にも昨年は小規模のテロが10件以上起きており、今年のブリュッセルの空港と地下鉄で起きたテロの容疑者の一人が、昨年11月のテロに直接関与していたことが分かっている。

 昨年1月のテロまでは、イスラム教を蔑視するメディアや、ユダヤ関連施設という明確な標的が定められていたが、昨年11月のテロ以降は、標的は明確な理由のない群衆など無差別テロに変化している。

 さらには2014年5月にブリュッセルのユダヤ博物館を襲撃したアルジェリア系フランス国籍のネムシュ容疑者のようにローンウルフ型のテロも増えている。

 フランスのテロ対策当局は、フランス国内には約5000人の監視対象者がいて、シリアやイラクには過去最大規模のフランス国籍者がISの戦闘に加わっているとしており、その全ての危険人物の日常の行動を監視するのは不可能だとしている。

 欧州最大のアラブ系イスラム移民を抱え、その同化政策が機能していないといわれるフランスでは、当局によるテロ対策強化だけでは、テロの脅威を取り去ることは不可能と指摘されている。テロリストを生む土壌ともなっている宗教差別や人種差別などの社会的軋轢(あつれき)とどう取り組むかがフランスでは問われている。