息巻くネオナチの“亡霊”、スロバキア総選挙で極右政党躍進
スロバキアでネオナチ政党が3月実施された総選挙で議席を獲得した。欧州連合(EU)の加盟国スロバキアは今年下半期の議長国だ。難民・移民の受け入れを拒否するスロバキアが議長国に就任することで、EUの難民政策が一層難しくなるのではないか、と受け取られている。同時に、ヒトラーの亡霊に操られたネオナチ政党の台頭はEUの統合を一層混乱に陥らせると懸念されている。
(ウィーン・小川 敏)
EUの難民政策に暗雲
反ユダヤに飛び火か
まず、スロバキア総選挙の結果とその後の連立政権発足までの経緯を紹介する。
スロバキアで3月5日、国民議会の総選挙が実施され、中道左派与党「方向党・社会民主主義」(Smer―SD)が得票率を前回(2012年、約44・4%)比で大幅に失ったが、第1党の地位(得票率約28・3%)をキープ。
総選挙の結果を受け、キスカ大統領はフィツォ首相に迅速な組閣を要請。その結果、Smer―SD、急進右派政党「スロバキア国民党」(SNS)、少数民族のキリスト教民主派政党「架け橋」(Most―Hid)、それに保守派新党「ネットワーク」(Siet)の4党から構成された連立政権(150議席中、85議席を占める)が発足したばかりだ。
前回の総選挙で大勝し、同国初の単独政権を発足させたフィツォ首相は今回、守勢を強いられてきた。難民・移民の受け入れでは、「わが国はイスラム系難民、移民は受け入れない」と表明し、難民の殺到で不安を持つ国民にアピール。反難民受け入れ政策が功を奏して第1党は死守できたが、前回より得票率を大きく減らした。その一方、急進右派政党SNSとネオナチ政党「国民党・われらのスロバキア」(LSNS)が躍進した。
選挙前の世論調査ではLSNSの躍進は予想されていたが、得票率8%を得るとは誰も予想していなかったから、他の政党ばかりか、国民も大きなショックを受けた。
LSNSはホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を否定するなど反ユダヤ主義を標榜(ひょうぼう)し、少数民族ロマ人を誹謗(ひぼう)中傷。そして、EU脱退を要求する一方、難民・移民の受け入れに強く反対してきた。
ヒトラー崇拝者のマリアン・コトレバ党首(39)は欧州で最も過激なネオナチとして有名。普段はユニホームを着ている。同党首は05年以来、何度も起訴されているが、これまで逮捕を逃れてきた。同党の前身は06年に禁止させられた極右政党「スロバキア同盟」だ。コトレバ党首は13年、同国中部のバンスカー・ビストリツァ県知事に就任して以来、党の基盤を強化してきたといわれている。
フィツォ第2次政権がスタートしたが、LSNSの議会進出の衝撃は依然、続いている。独週刊誌シュピーゲル電子版(12日)によると、スロバキアでは政治家や知識人たちの間で、「なぜ、わが国でネオナチ政党が台頭してきたか」というテーマで議論が沸いているという。マルクスとエンゲルスの共著「共産党宣言」の冒頭の一節に倣って表現するなら、スロバキアで幽霊が出る。ネオナチという幽霊だ。
極右派政党の躍進は欧州諸国では今日、至る所で見られるが、明確な反ユダヤ主義を唱えるネオナチ政党が議会に進出したのはスロバキアが初めてだ。
スロバキアは東欧諸国の中でも国民経済は順調に発展。昨年の経済成長率は3・6%だ。失業率も10%の2桁を割った。外国投資も増加、特に自動車産業が大きな経済成長の原動力となっている。もちろん、問題はある。貧富の格差が拡大していることだ。
急進右派政党SNSとネオナチ政党LSNSの躍進の背景には、難民殺到による欧州の混乱があることは間違いないだろう。興味深い点は、スロバキアでは昨年、難民として受け入れられた数が限りなくゼロに近いという事実だ。国内に居住するユダヤ人が急減したが反ユダヤ主義はますます激しくなるポーランドとある意味で似ている。難民がいないのに難民・移民への憎悪が拡大する。そして移民・難民のシンボルとしてユダヤ人への憎悪が高まる、といった現象だろうか。






