バチカン立て直しに奔走 就任3年迎えたフランシスコ法王
ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ法王フランシスコが第266代法王に選出されて13日で3年目を迎えた。前法王べネディクト16世の生前退位を受けて急遽(きゅうきょ)開かれたコンクラーベ(法王選出会)で南米出身ブエノスアイレス大司教のホルへ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿=当時(76)=が数回の投票後、ローマ法王に選出された。フランシスコ法王の過去3年間の歩みを振り返ってみた。
(ウィーン・小川 敏)
1000年ぶり東西トップ会談も
「独身制」「婚姻」では現状維持
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで北部イタリア人移民の息子として生まれたフランシスコ法王は22歳の時、肺炎にかかり、肺の一部を切り取っている。この経験が彼を精神的な世界に目を向けさせることになった。聖職者となるためイエズス会修道院に入る。チリ、アルゼンチン、独フランクフルトの聖ゲオルゲンなどで神学を学ぶ。ドイツ留学中、豊かな欧州と南米の貧しさを肌で感じ、「貧者の救済」という彼のライフ・テーマが構築されていった。
フランシスコ法王は法王専用の宮殿に宿泊せず、ゲストハウス「サンタ・マルタ」に寝泊まりし、毎朝、そこでバチカン職員と共に朝拝を行っている。プロトコールを重視し、それを真面目にこなしていったドイツ人の前法王べネディクト16世とは違い、人との触れ合いを重視する南米教会出身の法王は欧州人の目にも新鮮に映り、それが法王の人気をこれまで支えてきた。
一方、教会の現状を見ると、決して楽観的にはなれない。聖職者の未成年者への性的虐待事件、法王の執務室から内部情報や書簡が外部に流れた通称バチリークス事件、そしてバチカン銀行の不正容疑など、数えれば切りがないほどの多くの不祥事が発生し、カトリック教会の信頼度は地に落ちている。
そこで、速足でフランシスコ法王の過去3年間の歩みを振り返ってみる。
2013年4月、バチカン機構の改革の第一歩として8人の枢機卿から構成された提言グループを創設し、法王庁の改革(具体的には使徒憲章の改正)に取り組むことを明らかにした。ローマ法王主導の中央集権体制を複数の指導者による集団指導体制への移行を狙ったものだ。
換言すれば、世界の司教会議を中心とした非中央集権体制移行への緩やかな改革だ。教区内の不人気な聖職者をバチカンが司教に任命する、といった過ちを回避できる上、意思決定プロセスを短縮できるメリットがある。
バチカン銀行(正式には宗教事業協会=IOR=)は過去、不法資金の洗浄(マネーロンダリング)容疑やマフィアとの関係などの疑いが持たれてきた。法王はバチカン銀行の刷新、財政問題の専門家を任命し、14年2月には「聖座とバチカン市国の財務・運営について調整する機関」を設置した。
フランシスコ法王の任期3年間のハイライトはやはり世界代表司教会議(シノドス)の開催だ。バチカンは昨年10月4日から25日まで、シノドスを開催し、「福音宣教からみた家庭司牧の挑戦」について継続協議を行った。シノドスの主要議題の一つは離婚・再婚者への聖体拝領問題だった。
参加者の話を総括すると、シノドスでは「個々のケースを検討して決める」という見解が多数を占めた。すなわち、神の名による婚姻は離婚が許されないが、何らかの事情から離婚した信者に対して聖体拝領の道を閉ざさず、現場の司教たちが判断を下すという見解だ。離婚を認めないカトリック教義を維持する一方、聖体拝領を離婚・再婚者にも与える道を開くという典型的な妥協案だ。
世界のメディアが注目する聖職者の独身制見直しでは大きな変化はない。教会の財政基盤を危機に陥れる独身制の見直しはフランシスコ法王でもできない。同性愛問題では、同性愛者の人権を尊重するという点で一致しているが、「婚姻は男性と女性の間」という教義を放棄する考えは法王にはない。ちなみに、フランシスコ法王は昨年10月4日、シノドス開催記念ミサで、「神は男と女を創造し、彼らが家庭を築き、永久に愛して生きていくように願われた」と強調している。
なお、超教派運動、キリスト教の再統一問題では、キューバの首都ハバナで2月12日、フランシスコ法王とロシア正教会最高指導者キリル1世の歴史的会合が行われた。東西両教会最高指導者の会合は1054年、教会のシスマ(分裂)以来初めてだ。
西方教会と呼ばれるカトリック教会と東方教会と呼ばれる正教会は11世紀頃、分裂して今日に至っている。両教会間には神学的にも相違がある。例えば、正教は聖画(イコン)を崇拝し、マリアの無原罪懐胎説を認めない一方、聖職者の妻帯を認めている。しかし、両派の和解への最大障害は、正教側がローマ法王の首位権や不可謬(ふかびゅう)説を認めていないことだ。東西両教会の再統一実現までには越えなければならない高いハードルが控えている。
フランシスコ法王はコンクラーベ開催直前の枢機卿会議で「教会は病気だ」と激しく教会の現状を批判している。同法王は内外共に病んだ教会の立て直しのため医者として登場してはや3年が過ぎた。そのフランシスコ法王は12月で80歳を迎える。法王に残された時間は限られてきている。