過去最大規模の難民流入にEU苦慮

難民対応、足並み揃わず

 2015年、欧州連合(EU)加盟国での難民申請者は125万人を超え、過去最大となった。シリアなどEU周辺国から押し寄せる難民や経済移民に対しては、EU加盟国の受け入れの対応は足並みが揃っていない。事態の収拾の目途(めど)が立たない中、EUは人道支援金の拠出を決めたが、今年の難民流入は増加するとの予想もある。(安部雅信)

ギリシャの協力がカギ

 フランスのオランド大統領とドイツのメルケル首相の両首脳は4日、パリのエリゼ宮で難民問題をめぐり会談を行い、7日に予定されるEUとトルコの首脳会合で、トルコに協力を求めていく方針を確認した。

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2月29日、ギリシャ・マケドニア国境のフェンスを壊す難民たち(AFP=時事)

 大量の難民や経済移民が、国境を超えてシリアからトルコに流入し、そこから欧州に流入している。昨年来、EUはトルコへの資金援助を行うことで、欧州への流入阻止を要請してきたが、効果は上がっていない。

 国際移住機関(IOM)によると、今年に入り、トルコの海岸からボートでギリシャに渡る難民や北アフリカからの難民の数は、2月末時点で12万9500人に達し、418人が溺死か行方不明になっていることが報告されている。また、同機関は1545人が陸路で欧州に到着していると見ている。

 欧州連合(EU)統計局が今月4日に発表した2015年のEU加盟28カ国での難民申請者数は、125万5640人で過去最大規模だった。前年比でも2・2倍以上、出身国別では、シリアが約36万3000人(全体の約29%)、アフガニスタンが約17万8000人(同約14%)、イラクが約12万2000人(同10%)だった。

 難民を最も積極的受け入れたドイツでの難民申請者は約44万2000人(全体の約35%)と最も多く、次いでハンガリー、スウェーデンの順だった。今年は2月末時点で、昨年以上のスピードで欧州を目指す難民や経済移民の数は増加しており、EUは特に経済移民の流入に警戒感を強めている。

 アテネを訪問した欧州理事会のトゥスク常任議長(EU大統領)は3日、ギリシャのチプラス首相と会談後、不法経済移民になろうとする全ての人に対して「欧州に来るべきではない。密航業者の言うことを信じ、命とお金を無駄にしないでほしい」と訴えた。

 ギリシャに上陸した難民や経済移民たちが通過するマケドニアでは、国境取り締まりを強化し、人数制限を行っていることから、現在約2万5000人から3万人の移民がギリシャ国内に足止めされている。そのため、マケドニアの国境警察官と移民の間で衝突が起きている。

 その他、移民の通過国となっているオーストリアが通過受け入れ人数制限を行っているほか、バルカン半島の複数の国が、シリアやイラクの移民に限定して通行許可証を発行するなどしている。そのため、アフガニスタン難民や経済難民が足止め状態に置かれ、劣悪な環境の中で待機を強いられている。

 7日に予定されるEU・トルコ首脳会議を前に、シリアで現在実施されている停戦をめぐり、トルコのダウトオール首相は、停戦が持続すれば難民流入は減少するとの見方を示す一方、シリア政府やロシア軍が、停戦協定の対象外となっているシリアの一部の反政府派勢力への空爆を続けていることへの不信感も表明している。

 そのため悲観的な見方の方が強く、昨年100万人の移民が欧州に到達したのに対して、今年は、それを上回る数の移民が押し寄せるとの予想を立てる関係者の方が多い。欧州委員会は今月2日、移民への人道支援策として向こう3年間で700億ユーロ(約8兆6600億円)を拠出する計画で合意した。

 一方、昨年最も難民を受け入れたドイツでは、メルケル首相が打ち出す移民政策に反対する極右派政党、ドイツのための選択肢(AfD)が支持率を伸ばし、大連合を組むキリスト教民主同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)を追い上げている。そのため、メルケル首相も国民を説得するため、EUの移民政策の厳格な実施を求めている。

 特に難民対応の第一義的な責任を負うギリシャ政府が、難民審査を迅速に行い、難民資格のない申請者の送還を迅速かつ確実に行うことが求められている。ドイツをはじめ他のEU加盟国は、ギリシャ政府が十分な対応をしていないと不満を表している。トルコの協力をどこまで取り付けられるかも課題だが、シリアの内戦終結以上の解決策はないことは誰もが承知しているところだ。