欧州で広がる反ユダヤ主義 米ユダヤ教ラビ ローゼン師に聞く
背景に経済・政治的不安定
国際機関「宗教・文化対話促進国際センター」(KAICIID)は18、19の両日、ウィーンで「グローバル・フォーラム」を開催した。同センターは昨年11月26日、サウジアラビアのアブドラ国王の提唱で設立された機関で、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、宗教、非政府組織代表が集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ。同フォーラムに参加した米ユダヤ教宗派間対話促進委員会事務局長のラビ(ユダヤ教指導者)、デービッド・ローゼン師に欧州で広がる反ユダヤ主義の背景などについて聞いた。
(聞き手=ウィーン・小川 敏、写真も)
――世界ユダヤ人会議(WJC)のロナルド・S・ローダー会長は「欧州で反ユダヤ主義が台頭してきた」と警告を発している。米ユダヤ教宗派間対話促進委員会事務局長として、その発言をどのように受け取っているか。
数字を見る限り、反ユダヤ主義に基づく出来事が増加しているが、増えているのは反ユダヤ主義だけではない。外国人嫌いも広がっている。同時に、過激なナショナリズムも台頭してきた。それらは経済的理由や政治的不安定によって助長されている。反ユダヤ主義が存在しないとは言えないが、「欧州に住むユダヤ人にとって人生は厳しい」という受け取り方は正しくはない。
――第2次世界大戦まではポーランドに300万人以上のユダヤ人が住んでいたが、現在、その数は7000人余りという。ユダヤ人が急減しても反ユダヤ主義は台頭している。「ユダヤ人なき反ユダヤ主義」の現象をどのように理解しているか。
反ユダヤ主義は人類歴史の中にさまよう耐性化ウイルスだ。多くの原因が考えられるが、主因は人間がスケープゴート(いけにえ)を必要とする存在だということだ。何か悪いことが生じると、誰かをその原因として非難する。そしてユダヤ人は伝統的にスケープゴート役を担ってきた。歴史的にみて、ユダヤ人は常に放浪の民だったのだ。
――反ユダヤ主義の台頭が指摘されるポーランドやハンガリーはローマ・カトリック教国だが、反ユダヤ主義はカトリシズムと関連があるか。
キリスト教は過去、ユダヤ人に対して敵意を説きまわっていたが、現在、カトリック教会を含むキリスト教会は反ユダヤ主義に毅然(きぜん)と反対している。決して反ユダヤ主義の扇動者ではない。ハンガリーのカトリック教会のエルドー・ペーテル枢機卿は反ユダヤ主義を厳しく批判している。世俗的な反ユダヤ主義は存在するが、彼らは宗教的用語を使用するだけで、教会とは全く関係がない。
――ユダヤ教、キリスト教、イスラム教はアブラハムから派生した宗教だが、3宗教の間でこれまでいがみ合い、紛争が絶えなかった。
宗教間の連帯をテーマとした数多くの会議が開催されている。アブラハムの宗教の一体化を叫ぶ運動はこれまでにないほど高まってきている。ただし、メディアはいいことは報道せず、悪いことだけを強調する。世界には悪いことより、いいことがもっと多くある。