オーストリア ワクチン接種義務化

自由制限に強い抵抗も
反対派と支持派で大きく分裂

 オーストリアで来年2月1日から新型コロナウイルスのワクチン予防接種が義務化される。それに先立ち、同国ではワクチン義務化に関する法案作成が進行中だ。ミュックシュタイン保健相とエットシュタドラー憲法問題担当相は9日、記者会見で草案を発表した。今後、関係省、専門家たちとの会談を重ねて最終法案をまとめ来年1月には施行する予定だ。それに対し、ワクチン義務化反対の抗議デモ集会が各地で行われるなど、ワクチン接種義務化は社会を二分化させてきた。
(ウィーン・小川 敏)

11月19日、記者会見するシャレンベルク首相(当時)=AFP時事

 バチカンを除くと欧州で全国民を対象とするワクチン接種義務化は、オーストリアが最初だ。隣国ドイツでもその動向に注視するなど、ワクチン接種義務化の動きが欧州で本格化してきた。

 ワクチン接種の義務化を最初に表明したシャレンベルク首相(当時)は11月19日、「社会の少数派ともいうべきワクチン接種反対者が多数派のわれわれを人質にし、社会の安定を脅かしている。絶対に容認できない」と表明している。

 ワクチン接種の義務化に関する法案によると、対象はオーストリアに住む14歳以上の全国民(約770万人)だ。例外は妊婦や特別な疾患を有している国民のほか、コロナ感染から回復した国民は6カ月間、ワクチン接種の義務はない。ただし、かかりつけの医師や専門医の診断書が必要となる。出産後、女性はその翌月末からワクチン接種の義務対象に入る。

 一方、未接種者は保健省からワクチン接種のリクエストを受ける。必須の予防接種には、最初の予防接種、2回目の予防接種(最初の予防接種から14日以上42日以内)、および3回目の予防接種(事前予防接種後120日以上270日以内)が含まれる。

 未接種者に対しては、3カ月ごとに600ユーロ(約7700円)の罰金が科せられる。年に2400ユーロ、最高の罰金は年間3600ユーロだ。14歳以上の国民で予防接種を受けていない国民は2月15日、保健当局からワクチン接種の要請を受ける。3月15日以降、ワクチンを受けていない国民は罰金が科せられる。

 保健省と憲法省は今後、憲法学者、感染症専門家、野党らと協議を重ね、最終法案を作成する。野党の中では極右政党「自由党」が草案作成のプロセスには距離を置いている。キックル党首は、「われわれはワクチン接種の義務化には反対する。ただし、ワクチンの接種には反対しない。個々が判断する問題だ」という姿勢を崩していない。ネオスのベアテ・マインル=ライジンガー党首は記者会見で、「自分はワクチン接種の義務化には反対してきた。国民の自由な判断を尊重していたからだ。しかし、ワクチン接種の現状やコロナ感染の拡大などを見て、ワクチン接種の義務化を支持することにした。さもなければ、第5、第6のロックダウンが回避できなくなるからだ」と説明している。

 問題は、「ワクチンを強要することは国民の自由を制限する」として、国民の間では強い抵抗があることだ。シャレンベルク氏がワクチン接種の義務化を宣言して以来、ワクチン接種義務化に抗議するデモ集会が開催され、反対者から「ワクチン独裁だ」といった声が聞かれる。

 同国では今月11日、12日の週末、首都ウィーンで自由党が主催した抗議デモ集会が開催された。警察側の発表によると、約4万4000人が寒い中、市内を抗議行進した。外出制限やFFP2マスクの着用義務などのコロナ規制が実施されて以来、オーストリア社会は規制反対派と支持派に分裂してきたが、ワクチン接種の義務化が表明されてから社会の分裂が一層広がり、抗議デモも過激化してきた。

 南チロルの道徳神学者マーティン・リントナー氏はワクチン接種義務化について「ワクチンの強制接種は、最終的には利点より多くのリスクを伴う。長期的には社会の過激化と2分化の危機が出てくる。オミクロンなど新変異株が出現する一方、時間の経過とともにワクチンの有効性が低下することなどを考えれば、ワクチン強制接種は長期間継続しない限り、社会の免疫効果は出てこない。しかし、強制接種を永遠に続けることなどは民主主義の社会では考えられないことだ」と説明している。

 なお、世界保健機関(WHO)のハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は7日、欧州で広がってきたワクチン接種の義務化への動きに対し、「ワクチン接種の義務化はあくまでも最後の手段でなければならない。パンデミック対策で全ての手段が実施された後、それ以外に選択肢がないと判断された場合に限られるべきだ」と義務化には慎重な姿勢だ。