独CDU次期党首メルツ氏 21世紀の国民政党目指す
メルケル前ドイツ首相の16年間の長期政権後、野党に下野したキリスト教民主同盟(CDU)は17日、ベルリンで、辞任するラシェット党首の後継者を選ぶ党員投票を実施し、フリードリヒ・メルツ氏(66)を選出した。メルツ氏は過半数を大きく上回る62・1%の票を獲得、1回目の投票で当選した。来年1月21、22日にデジタル形式で開催される連邦党大会(代議員1001人)で正式に承認される運びだ。(ウィーン・小川 敏)
揺れるキリスト教の看板
党員投票の結果は メルツ氏が62・1%、レトゲン連邦議員は25・8%、ブラウン前首相府長は12・1%だった。CDU史初の党員投票では約40万人の党員の66・02%が参加した。
メルツ氏は連邦議会でCDU院内総務を務めたが、メルケル氏との党内争いに敗北し、2009年一時政界から引退した。その後、経済弁護士、経営コンサルタント、16年から20年まで世界最大の資産運用会社であるブラックロックの監視役会会長を務めた。同氏は18年に政治にカムバックし、同年の党首選でカレンバウアー前国防相に敗れ、20年にはラシェット氏に敗れた。メルツ氏は「今回選出されなければ、4回目の党首選に出馬する考えはなかった」と述べている。
同氏はCDUの刷新、存在感のある野党になるとアピール、「自分を選んでくれた党員だけではなく、全党員の党首として努力していく」と語った。同氏には若い党員の中に根強いファンがいる。メルケル元党首の保守色を消したリベラルな政策に反発する党員がメルツ氏の支持基盤となっている。メルツ氏は「CDUを生き生きとした政党とし、21世紀の国民政党となっていく」と決意を表明している。
CDUとバイエルン州の姉妹政党・キリスト社会同盟(CSU)は今年9月26日の連邦議会選(下院)で党の歴史で最悪の結果、得票率24・1%で社会民主党(SPD)に第1党のポジションを奪われた。その結果、ショルツ首相主導のSPD、緑の党、自由民主党(FDP)の3党連立政権が誕生した。
興味深い点は、CDU・CSUは「キリスト教」という名を党名に冠しているが、キリスト教信者がCDU/CSUには投票せず、左派政党のSPDに投じる傾向が強まってきていることだ。バチカンニュースは前回の連邦議会選の選挙結果(4万1373人の有権者を対象)を分析している。それによると、CDU/CSUに投票したカトリック教徒は約35%だった。前回投票(2017年)の44%から9ポイント急減した。一方、プロテスタントの場合、24%で、前回比で9ポイント減だ(前回33%)。カトリック教徒もプロテスタントもCDU/CSUに投票した有権者が減少している。
すなわち、CDUはもはやキリスト教民主同盟という党の看板が揺れてきているわけだ。同時に、伝統、家庭、愛国といった保守的な政治信条が社会のリベラル化、世俗化の中で失われてきている。CDUが党としてのアイデンティティーを失ってきた中で、極右派「ドイツのための選択肢」(AfD)が難民・移民政策などで国民の支持を得て、急速に伸びてきたわけだ。
CDUの現党員の平均年齢は60歳、女性党員は全体の25%にすぎない。CDUを若い世代にアピールし、女性にとっても魅力ある政党に刷新しなければならない。初の党員投票で全党員の約3分の2が参加したことを見れば、ポスト・メルケル時代の次期党首への期待度の高さは分かる。
具体的には60%を超える得票率のメルツ氏に「新しい保守政治」を期待する声が強いわけだ。特に、環境問題では脱原発を推進したメルケル元党首とは異なり、メルツ氏は原子力エネルギーの平和利用に積極的なだけに、ドイツの今後のエネルギー政策の行方にも注目が集まる。
なお、姉妹政党CSUのマルクス・ゼーダー党首はツイッターで「結束して同盟(U)を強い政党にしていこう」と、CDU新党首のメルツ氏にエールを送っている。