【社説】クロマグロ増枠 資源管理し持続可能な漁業を


マグロ

 寿司ネタとして人気の太平洋クロマグロの来年の漁獲枠が、大型(30㌔以上)に限り15%拡大される。「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」の年次会合で正式決定した。資源量の回復が進んだと判断されたためだが、今後さらに資源管理を精密化して持続可能な漁業を進めていく必要がある。

 漁獲規制で資源量回復

 水産庁によると太平洋のクロマグロ資源量は1961年の約15万6000㌧をピークとして年々減少。一時は絶滅危惧種にまで指定された。原因の一つは日本による乱獲とされる。日本、米国、台湾などが参加するWCPFCは2015年に小型魚と大型魚に分けて漁獲規制を開始。18年には2万8200㌧にまで回復した。

 日本は18年から増枠を毎年求めてきたが、米国が「資源量が依然として少ない」と反対し、3年連続退けられてきた。さらに厳しい規制が必要と判断した水産庁は18年から、都道府県ごとの沿岸漁業と国が管理する沖合漁業について、漁獲量の上限を定め、取り過ぎた場合は都道府県などが漁獲停止を命じることができるようにした。

 こういった規制の中、漁獲を自粛した漁業者らの努力もあって資源回復は実現した。日本政府代表を務めた水産庁の高瀬美和子資源管理部審議官は「漁業者が大きな犠牲を払って資源管理に真剣に取り組んだ」と語っている。漁業者は、定置網に入ってきたマグロも逃してやるようなことまでしている。

 漁獲枠が15%増えることが決まり、22年の日本の大型クロマグロ漁獲枠は732㌧増加し5614㌧となる。持続可能なマグロ漁業への見通しが開けてきたことは日本の漁業全体にとっても明るい材料だ。資源管理が及んでいない他の魚種にも応用すべきである。

 資源管理は自然を対象としているだけに楽観は許されない。より合理的で有効なものにするため、水産庁は来年1月から、沖合で大型魚を獲る場合、漁船単位で漁獲量を割り当てる制度を導入し、超過した場合は罰則も適用する。これは漁業者同士の過当競争を防ぎ、結果的に漁業者の利益に繋(つな)げることを目指すもので、その結果に注目したい。経営的にも改善し、持続可能な漁業へのモデルとなることが期待される。

 漁業者が漁を自粛する一方、遊漁船の釣り師たちがマグロを釣り上げて、漁業者の不満の声が上がるという問題も起きている。幾つかの県で遊漁船のマグロ釣りを禁止した。水産庁や釣り団体の間で、遊漁船でも一定のクロマグロの漁獲枠を設ける案も浮上している。釣り人も資源管理に責任を持つのは欧米では常識となっている。日本もそういう文化を育てるべきだ。

 多様な魚を消費したい

 漁獲枠増でクロマグロの値下がりも期待される。ただマグロだけが魚ではない。日本近海ではほかにも美味で健康にもよい多種多様な魚が獲れる。

 環境や資源に配慮し多様な魚を消費することは、日本の魚食文化をより豊かになものにするに違いない。魚食大国として日本が目指すべきところがそこにある。