オーストリア 4回目のロックダウン
ワクチン接種を義務化
来年2月から 全国民対象は欧州初
オーストリアは22日から4回目のロックダウン(都市封鎖)に入った。期間は12月12日まで。ただ、ワクチン未接種者に対しては外出制限などのコロナ規制はその後も継続される。そして来年2月1日からワクチン接種義務を実施する。欧州ではこれまでバチカン市国がワクチン接種の義務化を実施しているほか、フランスなどでは医療・福祉関係者など特定の職種を対象に実施中だが、全国民のワクチン接種義務化は初めて。ロックダウンの実施とワクチン接種の義務化宣言を受けたコロナ規制やワクチン接種に反対する国民からは激しい抵抗の声が上がっている。
(ウィーン・小川 敏)
シャレンベルク首相は19日、チロルで開催された連邦・州代表合同会議後の記者会見で、「コロナウイルスを克服するためには目下、ワクチン接種しかないが、わが国の接種率は残念ながら低く、感染力のあるデルタ変異株の拡散を防止できないでいる。そのため不本意だが4回目のロックダウンを実施せざるを得なくなった」と説明し、国民に理解を求めた。オーストリアのワクチン接種率は20日時点で1回目の接種率69・9%、2回接種完了は65・5%に留まり、接種率では欧州で下位に位置する。
オーストリアでは今月15日からワクチン未接種者を対象に外出制限が実施されたが、新規感染者の増加を抑えることができず、ここ数日、新規感染者数が1万5000人を超えるなど連日最多記録を更新、病院の集中治療室(ICU)ベッドも少なくなってきた。感染が拡散しているザルツブルク州の州クリニックではトリアージ・チームがコロナ入院患者の振り分けを想定するなど緊急事態に直面してきた。
そこで全国民を対象とした厳格なロックダウンの実施に踏み切ったわけだ。22日から不要不急の外出は禁止され、日常の食糧を買うときの他、薬局や会社に行くとき以外は24時間の外出制限だ。
レストラン、喫茶店、コンサート、劇場など、文化イベントは全部中止され、学校は家庭でケアできない場合に限り、子供を学校に通わすことができる。高学年の生徒は可能な限り自宅でのEラーニング、公務員は基本的にホームオフィスとなる。
一方、ロックダウンの実施やワクチン接種の義務化に抗議する国民の抗議集会が各地で開かれた。ウィーンでは20日正午から英雄広場で1万人を超える参加者が結集、「政府はコロナ規制の独裁者だ」と叫んだ。同集会は極右政党「自由党」などが主催した。
なお、「ビタミンCを取り、山に登って新鮮な空気でも吸えばコロナなど怖くない」と豪語してきた自由党のヘルベルト・キックル党首は15日、感染して自宅隔離中だが、フェイスブックで「国民の自由を奪う政府の独裁を許すな」というメッセージを送っている。
オーストリア第2都市グラーツでは17日夜、4000人が参加するコロナ規制に抗議する集会デモが行われた。前日には、感染が最も広がっているオーバーエステライヒ州でも抗議デモが病院前で行われた。病院ではコロナ感染患者が溢れ、医師団はどの患者を優先的に治療するか、集中治療室(ICU)ベッドを与えるかでトリアージチームが苦慮している時だ。
24時間、休むこともできず、増えるコロナ患者をケアする看護師の一人は国営放送とのインタビューで、「ICUにいる患者の姿を一度見ればいい。コロナ感染がいかに恐ろしい感染症であるかが理解できるだろう」と述べていた。
ウィーン市保健当局はワクチン未接種者宛に書簡を送り、「あなたは接種の予約が取れました。是非接種を受けて下さい」とワクチン接種を促している。
オーストリアでは国民の約30%がワクチン接種を拒否している。その国民を接種させない限り、新規感染者の増加を抑えることはできない。
厳しい冬の訪れを控え、ワクチン接種をめぐる激しい攻防戦が展開されているわけだ。直径100ナノメートル余りのコロナウイルスは人間たちの攻防戦を見ながら、感染先を探して拡散してきた。