ベラルーシ 選手への抑圧は許されない
東京五輪陸上女子のベラルーシ代表から外され、強権的な本国による帰国命令を拒否したクリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手が、日本を出国して亡命先のポーランドに向かった。背景には、ベラルーシで「欧州最後の独裁者」と呼ばれるルカシェンコ大統領が強権支配を続け、同国オリンピック委員会も影響下に置いていることがある。
亡命を余儀なくされる
ツィマノウスカヤ選手は、予定した陸上女子100、200㍍だけでなく、ドーピング検査をめぐって選手が欠けた1600㍍リレーにも出場するよう迫られた。コーチの不手際を訴え、インスタグラムで不満を外部に公表したため、代表を外されて帰国するよう強制された。
ルカシェンコ氏はスポーツを国威発揚の手段と位置付け、選手団に政権への忠誠を要求している。東京五輪では選手の成績が過去と比べて振るわないため、強い不満を表明していた。
ツィマノウスカヤ選手は「投獄されるかもしれない」と訴え、帰国せずにポーランドへの亡命に動いた。「平和の祭典」である五輪に参加する選手が、他国への亡命を余儀なくされたことは残念だ。このような抑圧は許されない。
ベラルーシでは昨年8月の大統領選でルカシェンコ氏が6選を決めた。しかし有力対抗馬の出馬が排除されたり、反政権派候補の陣営幹部が拘束されたりしたため、6選決定後に長期政権や選挙不正に抗議する反政権デモが拡大。政権はデモを徹底的に弾圧し、五輪出場経験のあるアスリートも拘束された。
こうした弾圧があってはならないのは当然である。東京五輪でベラルーシの成績が低迷しているのは、ルカシェンコ氏の強権支配が影を落としていると言えよう。ツィマノウスカヤ選手は昨年8月、自身のインターネット交流サイト(SNS)で反政権デモへの支持を表明した。
一方、デモで弾圧された反政権派はポーランドやリトアニアに亡命。今年5月、搭乗機がベラルーシに強制着陸させられ、首都ミンスクで拘束されたジャーナリストのロマン・プロタセビッチ氏も亡命者の一人だ。
強制着陸事件などを受け、米国、英国、カナダ、欧州連合(EU)は共同で対ベラルーシ制裁を発動するなど圧力を強めている。4者は共同声明で「ルカシェンコ体制による人権、基本的自由、国際法に対する継続的な攻撃への深い懸念で一致している」と表明した。
一方、ロシアのプーチン大統領はルカシェンコ政権を支持して「対欧米」で結束している。ルカシェンコ氏が強気の姿勢を維持できるのも、やはり強権的手法を取るプーチン政権が後ろ盾となっているからだろう。
民主化へ取り組み強めよ
日本はツィマノウスカヤ選手の身柄を保護するなど亡命に協力し、国連のグテレス事務総長もこうした対応を評価した。人道上当然のこととはいえ、日本が民主主義を重んじ、強権支配を容認しないことを発信する形になったと言える。
今後も先進7カ国(G7)の一員として欧米と連携し、ベラルーシの民主化に向けた取り組みを強める必要がある。