連邦議会選9月に控えた独政治情勢

 ドイツで9月26日、連邦議会選挙(下院)が行われる。投票日を5カ月後に控えた時点でメルケル首相の与党「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」が野党・環境政党「緑の党」に抜かれて第2党に後退するという世論調査がこのほど明らかになった。(ウィーン・小川 敏)

与党後退、「緑の党」が躍進
コロナ禍で“先行き”見通せず

 ドイツ紙ビルド日曜版が世論調査機関カンターに依頼した調査結果によると、緑の党は28%でCDU/CSUの27%を抜いて第1党に躍進した。

4月19日、ベルリンで、ドイツ野党・緑の党の首相候補に選ばれたベーアボック共同党首(EPA時事)

4月19日、ベルリンで、ドイツ野党・緑の党の首相候補に選ばれたベーアボック共同党首(EPA時事)

 CDU/CSUの後退は今に始まったわけではない。連邦議員のスキャンダル、マスク購入での腐敗問題などが浮上し、国民の印象を悪くしたこと、首相候補者選出でのごたごたなどがマイナスとなった。CDU/CSUは前回の議会選(2017年)では32・9%を獲得して第1党を獲得したが、今回の次期選挙では30%割れは避けられないとみられている。

 CDUとCSUの同盟の間で1週間余り、誰を連邦議会選の首相候補者にするかでつばぜり合いがあった。結果は、多数党のCDUのアルミン・ラシェット党首(ドイツの最大州ノルトライン・ウェストファーレン州首相)が、バイエルン州地域政党のCSUが推すマルクス・ゼーダー党首を押さえて、統一首相候補者に選出された。CDU党首がCDU/CSU会派の統一首相候補者となり、選挙で第1党を確保すれば自動的に次期首相に就任するという公式はもはや現実的でなくなってきている。

 CDU/CSUの後退の最大の理由は、簡単に言えば、メルケル政権が長過ぎたことだ。15年間の長期政権に有権者は飽きた。新型コロナウイルスの感染拡大、予防対策、規制強化がそれを加速した。

 ドイツ政界では、CDU/CSUとドイツ社会民主党(SPD)の2大政党が交代に政権を担当する時代が続いてきたが、2大連立政権時代は既に過去のものとなった。SPDは選挙のたびに得票率を落とし、党首交代を繰り返し、現在は2人党首制を敷いている。SPDは先の世論調査では2ポイント減で13%だ。落ちるところまで落ちた、といった印象が強い。

 15年に中東・北アフリカから100万人を超える難民が殺到すると、難民反対、外国人排斥運動の新党極右「ドイツのための選択肢」(AfD)が国民の不満を吸収して、17年の総選挙で第3党に大躍進した。6年後、AfDは、建設的なコロナ対策を提示できず、有権者の支持を失った。

 一方で、緑の党が躍進した。40歳のアンナレーナ・ベーアボック共同党首を次期総選挙の首相候補者に選出し、CDU/CSUに挑戦状を突き付けている。その効果は明らかだ。先の世論調査では6ポイント増で28%でトップに躍進した。

 緑の党は、メルケル首相とは違い、若く、ダイナミックな首相候補として有権者にアピールしていくだろう。独週刊誌シュピーゲル最新号(4月24日号)は表紙にベーアボック党首を大きく載せた。ベーアボック党首の懸念材料は州首相や閣僚経験のないことだ。

 シュピーゲル誌は、「ベーアボック党首は今後、政策の具体化が必要となる」と指摘、「同党首への期待は直ぐに吹き飛んでしまう可能性もある」と予想している。

 緑の党が第1党に躍り出た場合、緑の党とCDU/CSUの2政党連立が最も現実的だが、緑の党、SPD、自由民主党(FDP)の3連立政権の発足も十分考えられる。

 5カ月間の選挙戦で何が起きるか予想できない。特に、新型コロナの予防策であるワクチン接種が加速し、ドイツ社会が集団免疫状況を実現できるなら、国民も余裕が出てきて、選挙の争点も政権批判のオンパレードではなく、政策論争が展開されるかもしれない。いずれにしても、15年間のメルケル政権は終わる。安定と経済的繁栄の時代はすぎ、コロナ禍で未来への見通しが確かではない時代圏に突入している。それだけにドイツ政界で想定外のサプライズが起きる可能性は排除できない。