独教会ケルン大司教区のカオス
ドイツのケルン市といえば、市内中央にそびえ立つケルン大聖堂を思い出す人が多いだろう。そのケルン市のカトリック教会大司教区が今、大揺れだ。信者たちの教会脱退が急増し、同大司教区の最高指導者ライナー・ヴェルキ大司教(枢機卿(すうききょう))の辞任要求が高まっている。
(ウィーン・小川 敏)
尾を引く聖職者の性犯罪問題
高まる大司教辞任要求
ケルン大司教区の混乱の直接の契機は、ヴェルキ枢機卿が2017年に実施された聖職者の未成年者への性的虐待問題の調査報告書を「調査方法が十分でなかった」という理由で公表を避けたことだ。それに不満を持った信徒たちが次々と教会から脱退。ヴェルキ枢機卿は昨年、聖職者の性犯罪問題の再調査を要請、自身が任命した弁護士に調査を依頼した。その調査報告書が今月18日、公表されることになっている。
ヴェルキ大司教は2014年、1989年から職務にあったヨアンヒム・マイスナー大司教が高齢を理由に辞職したのを受け、ケルン大司教区の責任者に就任した。当時、多くの信者たちは新大司教の下で教会の刷新が行われるだろうと期待していた。期待が大きければ、それが実現されないときは失望も一層大きくなる。
ケルン大司教区で神父がカトリック系寄宿舎で未成年者に性的虐待を行ったが、大司教区はその事実を隠蔽(いんぺい)するばかりか、不祥事を犯した神父の聖職を剥奪することなく、聖職に従事させていたことが明らかになった。
聖職者の未成年者への性的虐待、その事実を教会側が隠蔽し、聖職者を別の聖職に従事させ、事件が明らかになると急遽(きゅうきょ)解任するといったパターンは世界のカトリック教会でこれまで繰り返されてきたことで、事件とその経緯は決して新しくはない。
独週刊誌シュピーゲル(2月20日号)は「聖職者の性犯罪、それを組織的に隠蔽してきた“マイスナー・システム”から“ヴェルキ・システム”に移行しただけで、聖職者の性犯罪の全容解明は行われず、教会は隠蔽し、何もなかったように装ってきた」と報じているほどだ。同誌によると、調査対象は300件を超え、犠牲者数は300人を超え、容疑者は200人以上がリストアップされているという。
ドイツでも過去、聖職者の性犯罪は頻繁に報じられてきた。特に、レーゲンスブルクの「レーゲンスブルク大聖堂少年聖歌隊」内で起きた性的暴行・虐待事件はドイツ国民に大きな衝撃を与えた。世界最古の少年合唱団として有名な同聖歌隊内で1953年から92年の間、性的暴力、虐待事件が発生し、その総数は422件に及んだ。事件を調査した独立調査調停人の報告書では「犯行の現場となった少年聖歌隊の施設内では久しく『恐怖のシステム』が支配してきた」と説明している。教会側の隠蔽と口止め工作があったわけだ。その「恐怖のシステム」は、ケルン大司教区ではマイスナー・システムであり、その後、ヴェルキ・システムと呼ばれ、久しく継続され、実践されてきた。
ケルン大司教区では信者、神学者、関係者がヴェルキ枢機卿の辞任を要求している。同時に、教会から脱退する信者が増加。昨年1年間だけで約7000件の教会脱退が登録されている。今年に入っても教会脱退は増え、3月に入れば月500件の脱退手続きが待っているという。また、「マリア2・0」運動と呼ばれる女性グループが男性主導の教会組織から脱皮し、女性たちにも聖職の道を要求し、教会の刷新を訴えている。
ケルン大司教区のカオスは、神の危機でも社会の世俗化問題でもなく、長い間続いてきた教会組織の賞味期限が過ぎ、もはや機能しなくなっていることを端的に示している。