仏教師殺害 社会の分断の深まりを懸念


 パリ近郊の中学校付近で同校勤務の男性教師が殺害された事件は、教師が授業でイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を使ったことが犯行の動機だったとされている。

 授業でムハンマド風刺画

 教師は、ロシアのチェチェン人とみられる容疑者に首を切断されて殺害された。容疑者は犯行直後、現場付近で警官に射殺され、警察はこれまでに容疑者の親族やインターネット交流サイト(SNS)で教師の名前を複数回投稿した保護者ら10人以上を逮捕した。

 容疑者は射殺される直前「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだという。また、携帯電話を通じて被害者の切断された頭部の画像をツイッターに投稿。マクロン仏大統領を「不信心者」と非難し、「ムハンマドをおとしめた、おまえの犬を始末した」と書き込んだ。教師は「表現の自由」に関する授業で風刺画を生徒に見せたという。

 しかしムハンマドを冒涜(ぼうとく)したからといって、残虐な方法で殺害することは断じて容認できない。マクロン氏が「イスラム教徒によるテロに特徴的な事件だ」と糾弾したのは当然だ。

 事件を受け、フランス各地で追悼集会が行われた。参加者らは「私は教師」などと書かれた紙を掲げて教師を追悼し、表現の自由の大切さを訴えた。

 ただ、教師の授業には一部の保護者が抗議していた。保護者の一人は事件前にインターネット上に投稿した動画で、教師がイスラム教徒の生徒に退出を許可した上で「ムハンマドの裸の絵を見せた」と説明した。

 アラブ系移民が人口の1割を超えるフランスでは、イスラム教が勢力を伸ばしている。同化はうまくいかず、差別と貧困に苦しむ移民系の若者はイスラム聖戦主義に影響されやすい環境にある。

 今回の事件について、南西部ボルドーのモスク(イスラム教寺院)指導者タレク・ウブルー師は「罪のない人を殺すのは文明ではない。それは野蛮のすることだ」と述べた。こうした見解を、全てのイスラム教徒に共有してほしい。

 一方、風刺週刊紙シャルリエブドは9月、2015年1月の本社襲撃テロ事件のきっかけとなったムハンマドの風刺画を再掲載。この後、旧本社ビル前で2人が刺され重傷を負うテロ事件が起きた。

 繰り返すが、テロは決して許されない。ただ、表現の自由をめぐってフランス社会の分断が深まることが懸念される。

 シャルリエブド襲撃事件で殺害された編集者やイラストレーターには極左、無政府主義者など宗教を否定する思想の持ち主が多い。イスラム教徒への配慮が欠けていたことは明らかだ。

 良識に基づく自制を

 マクロン氏は、ムハンマドの風刺画再掲載について「(信仰)冒涜もメディアの表現の自由で保障されるべき」との見解を示した。確かに表現の自由は最大限守られるべきだが、自由には責任が伴う。

 今回の事件でも、授業で風刺画を使うことでイスラム教徒の心を深く傷つけた。良識に基づく自制が働かなければ、社会に混乱を招きかねない。