欧州会計監査院 中国の投資に警戒呼び掛け

「市場の経済規律無視」を懸念

 ルクセンブルク市に本部を置く欧州会計監査院(EuRH)は10日、欧州連合(EU)域内への中国国営企業の投資状況を分析した報告書を公表した。EUにとって中国は米国に次いで2番目の通商相手国だ。中国側の投資の半分以上は中国国営企業からだが、その内容には不透明なものが多い。
(ウィーン・小川 敏)

EU加盟の15カ国、一帯一路対応で合意

 2013年に中国共産党政権のトップに君臨した習近平氏がシルクロード経済圏構想「一帯一路」をスタートさせて以来、中国は自国の影響力を拡大する一方、EU諸国でもそのプレゼンスを強めていった。「中国投資に関する報告書」によると、中国企業の投資活動は主に国営企業が実施し、エネルギー、鉄道、港湾、通信など戦略的に重要な分野に投資してきた。

ギリシャ最大のピレウス港を訪れたミツォタキス首相(左)と中国の習近平国家主席=2019年11月11日(AFP時事)

ギリシャ最大のピレウス港を訪れたミツォタキス首相(左)と中国の習近平国家主席=2019年11月11日(AFP時事)

 EuRH報告は「問題は中国の国営企業が北京の共産党政権の管理下にあるため、EU市場の経済規律を無視し、歪めることが多いことだ」と指摘。中国国営企業は、EUで通常の企業に適応される国家補助金や助成金の規制の適応外に置かれていると指摘している。その上、「中国企業がEU加盟国でどの分野に投資したのか、その内容や規模に関する信頼できる情報がまったくない。加盟国も国益を最優先するから中国企業の投資に関する詳細な情報を提供しない。そのため、EUは共同の対中投資戦略が構築できない」と懸念している。

 具体的には、EU27カ国中15カ国が、中国が進める一帯一路構想に関連した投資で中国政府との間で基本合意に署名しているが、加盟国は事前に欧州委員会に報告しないことが多い。加盟国は本来、報告が義務付けられているという。

 EuRHは中国の投資を「18のリスクと13のチャンス」と呼んでいる。政治、経済、社会、法体制、環境的リスクなどが挙げられている。また、中国へ先端技術移転を加速することで、EUの競争力を低下させるなどのリスクもある。

 一方、利点としては、一帯一路の貿易を通じて、海上や空路輸送に代わって鉄道輸送を利用できることから貿易コストを削減できる。域内の雇用拡大や経済成長の促進などが指摘されている。

 ここにきて問題として浮上してきた点は、中国のプロジェクトに参加し、中国の投資を受けてきた国の中に、債務返済不能に陥っている国が多いことだ。スリランカ、モンゴル、パキスタンで既に見られる。債務返済不能となった場合、中国側の言いなりになってしまう危険性が出てくる。欧州で中国国営企業は、イタリア、ハンガリー、ギリシャに積極的に投資している。その投資が暗礁に乗り上げた場合、債務を返済できなくなるといった事態が考えられるわけだ。

 習氏が提唱した一帯一路構想は、鉄道、道路、湾岸を建設し、東南アジア、西アジア、中東、欧州、アフリカを陸路と海路でつなぐ巨大なプロジェクトで、9000億ドルの資金が投入される。欧州では、ハンガリーやギリシャが既に参加しているが、イタリア北東部の湾岸都市トリエステが中国企業の欧州供給拠点となることを目指している。また、ギリシャ政府は2016年4月、同国最大の湾岸都市ピレウスのコンテナ権益を中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)に売却するなど、中国との経済関係を深めている。

 中国は一帯一路とハイテク産業育成策「中国製造2025」を通じて経済成長と国としての影響力拡大を狙っている。中国はEU加盟国と西バルカン諸国が所属する「17カ国プラス1」という協力機構を創立している。

 一方、EUは16年、中国の鉄鋼ダンピングを受けて反ダンピング関税引き上げ措置を取り、中国が久しく要求してきた市場経済ステータスの承認を拒否するなど、中国を「パートナーであると同時に、体制的競合国」と位置付けてきた。

 EU委員会は7月24日、次世代通信規格「5G」の導入に当たり、従来の政策を変更して「EU内で努力すべきだ」と主張している。

 重要な通信システムを外国企業に委ねれば安全保障上のリスクが大き過ぎるという判断からだ。中国企業の直接投資(FDI)に対するスクリーニング制度の導入など、中国の投資への警戒心が欧州に広がってきている。