新型コロナへの対応、制限緩和で試行錯誤の欧州
ドイツ、イタリア、フランスなど欧州連合(EU)諸国は、次々に新型コロナウイルス対策で講じてきた封鎖措置の緩和に舵を切っている。その一方で、感染の「第2波」ともいえるクラスター(集団感染)が発生するなどの現象が起きており、各国政府は経済活動再開と感染封じ込めの間で葛藤が続いている。
(パリ・安倍雅信)
「第2波」発生に懸念も
経済への波及が焦点に
フランス政府は11日から封鎖措置の段階的緩和に踏み切った。9日の保健省の発表では、過去24時間の死者数が80人と、3月1日以降で最低となったと報告した。
しかし、8日の発表では死者数は243人増え、前日の178人を上回っていた。4月28日に5月11日からの緩和措置を発表していたフランス政府としては、思わしくない数字だった。ただ、医療施設と高齢者介護施設の死者数が4週連続で減少し、集中治療を受ける患者も減少していることから緩和に踏み切った。
仏政府は、感染者数によって色分けした二つのゾーンで異なった緩和措置を取り、感染数値を見ながらゾーンの色分けを変えていく手法を取っている。国民からは不安の声も聞かれ、全国で100キロ圏内の外出が認められたが、仏警察官組合幹部は「100キロの確認は実際には困難」と指摘している。
一方、EUで最も早く新型ウイルスの感染が拡大したイタリアは今月4日、ロックダウン(都市封鎖)の段階的緩和に踏み切った。最初の段階の緩和対象の市民約450万人が社会的距離を保つことやマスク着用を条件に職場復帰が認められた。ただ、外出は運動目的、居住地域内で親族に会うことに限られ、友人との面会は認められていない。
緩和から1週間が経(た)つが、人が群れる様子の動画や写真がSNS上に投稿され、非難の声も上がっている。同国の感染症専門家は「非常に多くの無症状感染者が街に繰り出し、危険な状態だ」と警告している。
スペインは6日、非常事態宣言の期限を2週間延長することを承認した。すでに4段階に分けた封鎖緩和措置に踏み切ったものの、政府は人々の移動制限などを続けている。感染状況が深刻な首都マドリードと第二の都市バルセロナでは当面、厳しい規制が継続される見通しだ。
欧州で夏のバカンス時期に最も多くの外国人旅行者を集めるスペインでは、ビーチで距離を取る試みなどを始めているが、再度の感染拡大に不安を持つ市民は少なくない。
一方、ドイツはメルケル首相が6日、規制の大幅緩和を打ち出したが、各地でクラスターが発生し、緊張が走っている。ドイツ政府の緩和政策は14州と2特別市ごとに自治体に権限が付与されており、場合によっては極端な地域差が生まれる可能性がある。
北部シュレスウィヒ・ホルスタイン州では、食肉処理工場でクラスターが発生。中部テューリンゲン州でも、高齢者施設でクラスターが確認された。各自治体は、封鎖措置を戻すか緩和を続けるかの判断を迫られている。
世界で2番目の死者数を出している英国のジョンソン首相は10日、段階的な制限緩和計画を発表した。ただ、計画は極めて限定的で、慎重な姿勢をうかがわせた。
英国の死者数は依然高水準だが、経済への悪影響が深刻化しており、制限緩和を求める声も強まっている。1月末にEUを離脱した英国は、EUとの自由貿易協定(FTA)交渉が行き詰まっており、経済不安も広がっている。
一方、欧州委員会は3月から導入している域外からの入域を原則禁止する措置を6月15日まで1カ月間延長することを加盟各国に要請している。ただ、財政支援策としてイタリアやスペインなど南欧諸国が主張するユーロ共同債に対して消極的なドイツなど欧州北部諸国との対立が消えていない。
今回の新型ウイルス対策の初動でEU加盟国が協力関係を強化できなかったことは、静かにしていたEU懐疑派を刺激し、今後、ポピュリズム運動の再燃も懸念される。一進一退の封鎖措置緩和で、どこまで経済が持ちこたえられるかが注目されている。