新型コロナ 観光立国オーストリアも大打撃
アルプスの小国オーストリアは観光立国だ。その観光業界が、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う国境閉鎖、外出自粛、コンサート、文化・スポーツイベントの停止の影響を受けて大きなダメージを受けている。5月半ばにはレストランやホテルの再開が考えられるが、全ては感染者数の動向次第だ。
(ウィーン・小川敏)
ホテルなど5月半ば再開目指す
爆発的な感染拡大は阻止
地球温暖化は人類存続に危機をもたらすと警告されてきたが、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナは、世界の観光業界に致命的なダメージを与えている。スウェーデンの環境保護活動家グレタ・トゥンベリさんが始めた地球温暖化に対する抗議集会はコロナゆえにできなくなったが、新型コロナがグローバル化をストップさせ、飛行機は飛ばず、外出は規制され、車も少なくなった。二酸化炭素は減り、中国の空気もきれいになったが、観光地を人が自由に旅行することも、自然の中で家族や友人たちと集まることもできなくなってしまった。
欧州では復活祭(4月12日)が過ぎれば夏の大型休日の過ごし方が最大の話題となるが、感染拡大で夏季休暇の計画は全ておじゃんとなってしまった。5月の連休を海外で過ごそうと計画していた多くの日本人も、同じ思いだろう。
旅行に欠かせない飛行機が飛ばない。外国を訪問するにも国境が閉鎖されている。最新の健康証明書が求められる。入国したとしても、2週間の隔離生活を強いられる。これでは旅行も観光もできない、その最大の被害者は世界の航空産業であり、ホテル業界、それに関連した観光地のレストラン業界や土産店だ。
音楽の都ウィーンには世界からクラシック音楽ファンがベートーベンやモーツァルトの足跡を求めてやって来る。冬になれば、スキーのメッカ、チロルでウインタースポーツを楽しむ人々であふれる。また、ウィーンは欧州一の国際会議開催地で、毎年さまざまな医学界の総会が開催されてきた。ウィーン市には30を超える国際機関の本部、事務局がある。
オーストリアは観光業から入る収入で国庫の財政をやりくりしてきた。ところが、新型コロナの発生でホテルは閉鎖され、オペラ座をはじめ、コンサートハウス、博物館や美術館は休館。5月に入り、再開されたとしても人と人の距離を1メートル以上取らなければならない。これではゆっくりと見学はできない。
オーストリアの感染者総数は25日現在1万5117人、死者536人、回復者1万2103人。
クルツ政権は新型コロナ対策では迅速だった。対イタリア国境を直ちに閉鎖する一方、国民には外出自粛、経済活動の縮小などを実施してきた。その結果、爆発的な感染拡大は阻止できたが、失業率は今年3月、約12・2%と急上昇した。3カ月間の短期労働雇用制を実施したが、肝心の観光業は休業状態。オーストリアの国民経済は今年マイナス成長といわれる。国民経済の再開を要求する声が出てきたが、オーストリアの場合、そのカギを握っているのは観光業だ。
クルツ首相は6日の記者会見で「今月14日から小規模店舗の営業を再開。5月1日からはそれ以外の店舗、理容室、ショッピングモールなどの営業も認める。5月半ばにはレストランやホテルも再開できる見通しだ」と語った。
同国のエリーザべト・ケスティンガー観光相は「観光業を徐々に活発化したい」と表明、ドイツやチェコなど新型コロナ対策で感染者が減少してきた国との間で国境閉鎖を解除して、観光客の往来を認めたい方針を明らかにした。
それに対し、ドイツ16州で最大の感染者を出しているバイエルン州(感染者数25日現在4万547人)のマルクス・ゼーダー州首相は21日、「毎年開催されてきた世界最大のビールの祭典『オクトーバーフェスト』の開催を今年は中止する」と表明するなど、感染防止の制限措置を早急に解除することには消極的だ。