マスク奨励に戸惑い


地球だより

 友人のフランス人のピエール氏は、新型コロナウイルスのために全土に外出禁止制限令が出された時、外出時のマスク着用が奨励されたことに背筋が寒くなった一人だ。彼はマスクが大の苦手で、家の改装工事を手伝った時、防塵(ぼうじん)マスクを付け5分もしないうちにマスクを外し「呼吸ができない」と叫んだほどだ。その彼が東京に行った数年前の春先、街頭を歩く多くの人々が花粉症対策でマスクを着用しているのを見て、この国は病人だらけだと勘違いし恐怖を感じたという。

 実は西洋人に日常、マスクを着用する習慣はない。ウイルス性の重い疫病患者や医療関係者以外はマスクを着用しない。路上で見掛けたら怖くて避けて歩く。マスクと縁遠いもう一つの理由は、東洋人より鼻が高いため、鼻の両脇に隙間ができてしまう。

 日本に住む友人のフランス人男性は、アベノマスクを着用した姿を日本人の妻と鏡で見て、腹を抱えて笑ったそうだ。

 ところがコロナ禍の中、欧州でも外出時のマスク着用を義務付ける国が増えている。フランス政府も、5月11日以降、外出制限令を段階的に解除する上でマスク着用義務を検討中だ。

 もともとマスク着用習慣のないフランスでは、需要に供給がまったく追い付いていない。最近、中国から到着した1000万枚を超えるマスクの中に不良品が見つかり、なぜ中国に発注するのかと批判の声が上がった。今や中国製マスクも世界各国政府の取り合い状態、フランス発注分が米国に横取りされる事態まで起きている。

(A)