EU、フランス パリ協定推進に執念


「温暖化」新年も世界に影響

 2020年も地球温暖化問題が世界に影響しそうだ。欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン新委員長の看板政策は、温室効果ガス排出量を2050年までに「実質ゼロ」にする目標を掲げる「欧州グリーンディール」だ。対策に向け研究開発への大規模投資や新技術による雇用創出を前面に打ち出し、「世界基準を決めるのはEUだ」と訴えている。この点ではEUの牽引(けんいん)国フランスも異論はない。(パリ・安倍雅信)

マクロン仏大統領(左)とトランプ米大統領

2019年12月3日、ロンドンで首脳会談に際し笑顔を見せるマクロン仏大統領(左)とトランプ米大統領(AFP時事)

 フランスは、15年に196カ国が参加した気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で温暖化対策の国際的枠組みとなる「パリ協定」を採択に導いた議長国。同協定からトランプ米大統領が離脱表明した後も、揺るぎない決意をドイツと共に表明している。

 パリ市は自動車の乗り入れを規制する方針で、24年に市内へのディーゼル車乗り入れゼロ、30年にはガソリン車の乗り入れゼロを目指している。実施に向け、すでにパリ、リヨン市近郊を走行する全車両に排ガスレベル認定シールのフロントガラス貼り付けが義務化された。認定レベルによって、乗り入れ制限を徐々に強化し、大都市を走行するのは電気自動車(EV)だけにするのが最終目標だ。

 パリ首都圏の公共輸送機関統括局の調査では、18年の自動車利用は1480万回で5%の減少を記録、調査開始の1976年以降、初めて減少に転じた。

 自動車利用回数の減少に比例し、公共交通機関による移動回数は940万回で14%増、特に通勤時の公共交通機関利用が増加している。30年以上、パリ郊外から市中心部の別々の仕事場に2台の車で通勤していたミカエル氏とアンさん夫婦は、1年前から電車通勤に切り換えた。自転車利用者は30%も増加。パリ中心部にある金融機関に勤めるコルテー氏も自転車通勤に切り換えた。市民の意識向上が数字に現れ始めている。

 ただ、意識の地域格差もあり、南東部のグルノーブル市では自転車優先道路を整備したにもかかわらず、同市の温室効果ガス排出量に変化が見られない。パリではEVのレンタルシステムがビジネスとして継続できずに破綻し、一昨年には環境相を務めていた著名なジャーナリストのニコラ・ユロ氏が、「マクロン政権は経済政策優先だ」と批判して辞任するなど、政権の本気度を疑う世論もある。

 そのマクロン大統領は昨年、大阪で開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議の首脳宣言にパリ協定が盛り込まれないことに強い不満を表明した。しかし、その後にフランスで開催された主要7カ国(G7)首脳会議では、温暖化対策をめぐる対立から首脳宣言の採択は見送られた。

 「炭素税は温暖化対策やエネルギー転換に不可欠」としたマクロン政権に対して、2018年11月から燃料税引き上げに抗議する黄色いベスト運動も1年以上続く。ディーゼル車の燃費メリットを減らす試みは、弱者を犠牲にすると反発され、取り下げた。

 欧州あげてパリ協定を推進していく構えのEUだが、「温暖化対策は重要でも、その経済的負担を低所得者だけが被るのは不公平だ」との不満も出ており、いかに温暖化対策と経済発展を結び付けるかが課題となっている。